「うちの会社は税務上の中小企業に当たるのか」——軽減税率や少額減価償却の特例、交際費の枠など、法人税にはさまざまな中小企業向けの優遇があります。ところが、その「中小企業」の判定は、実は一筋縄ではいきません。
多くの制度で出発点になるのは資本金1億円以下という基準です。しかし、同じ「中小」でも、法人税法上の「中小法人」と、租税特別措置法上の「中小企業者」では範囲が違います。さらに、大きな会社に株式を持たれている場合や、所得が非常に大きい場合には、中小扱いから外れることがあります。
この記事では、税務上の中小企業の判定基準と、中小企業が受けられる主な優遇の全体像を、国税庁の一次情報に基づいて整理します。
税務上の「中小企業」は資本金1億円以下が出発点
法人税やその特例で「中小企業」を判定するとき、最も基本になるのが各事業年度終了の時における資本金(出資金)の額が1億円以下かどうかです(資本や出資を持たない法人も一定の場合に含まれます)。
たとえば法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に15%)は、「資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人など」を対象としています(国税庁タックスアンサー No.5759「法人税の税率」)。少額減価償却資産の特例や交際費の定額控除なども、この資本金1億円以下を土台にしています。
ただし、資本金1億円以下でありさえすれば無条件に「中小」扱いになるわけではありません。次章のとおり、制度によって範囲が分かれ、除外されるケースもあります。
「中小法人」と「中小企業者」は範囲が違う
税務上の中小企業には、大きく分けて2つの概念があります。国税庁タックスアンサー No.5432「措置法上の中小法人及び中小企業者」でも、両者は区別して定義されています。
中小法人(法人税法上の考え方)
「中小法人」は、おおむね資本金1億円以下であることを軸にした概念です。軽減税率、交際費の800万円定額控除、欠損金の繰戻し還付、欠損金の繰越控除の全額控除など、多くの制度で使われます。資本金1億円以下でも、資本金5億円以上の大法人などに完全支配されている法人は除かれます。
中小企業者(租税特別措置法上の考え方)
「中小企業者」は、資本金1億円以下に加えて、大規模法人による出資の状況でさらに絞り込まれます。具体的には、次のいずれかに当たる法人は中小企業者から除かれます(No.5432)。
- 発行済株式(出資)の総数または総額の2分の1以上を、同一の大規模法人に所有されている法人
- 発行済株式(出資)の総数または総額の3分の2以上を、複数の大規模法人に所有されている法人
ここでいう「大規模法人」とは、資本金1億円超の法人や、資本・出資を持たず常時使用する従業員が1,000人を超える法人などを指します(No.5432)。少額減価償却資産の特例(令和8年度改正で40万円未満に引き上げ)や中小企業投資促進税制などは、この「中小企業者」の範囲で判定します。
ポイント: 資本金1億円以下でも、親会社(大規模法人)に株式の過半数を握られていると「中小企業者」に当たらず、少額減価償却などの措置法の特例が使えないことがあります。「中小法人」には当たるが「中小企業者」には当たらない、という組み合わせもあり得ます。
判定の具体例
言葉だけではイメージしにくいので、簡単な例で見てみましょう(いずれもあくまで一般的な例示で、実際は個別事情で変わります)。
- 例1:資本金1,000万円・株主は個人のみ → 「中小法人」にも「中小企業者」にも該当しやすく、両方の優遇を受けられる可能性が高い。
- 例2:資本金1,000万円・資本金10億円の親会社が100%保有 → 大法人による完全支配関係に当たり、「中小法人」から除外される可能性がある。
- 例3:資本金5,000万円・大規模法人1社に60%を保有されている → 資本金は1億円以下でも、大規模法人に2分の1以上を出資されているため「中小企業者」から除外される可能性がある(少額減価償却などの措置法特例が使えないことがある)。
中小扱いから外れるケース
資本金1億円以下でも、次のような場合は中小向けの優遇から外れる、あるいは一部が使えなくなることがあります(No.5432・No.5759)。
大法人による完全支配関係がある場合
資本金5億円以上の大法人などに完全支配関係(原則100%の株式保有)で支配されている普通法人は、「中小法人」から除かれます。グループ内の完全子会社が典型例です。
大規模法人に出資されている場合(中小企業者の判定)
前章のとおり、大規模法人に2分の1以上(同一)または3分の2以上(複数合計)を出資されている法人は、「中小企業者」から除かれます。
適用除外事業者(所得が非常に大きい場合)
資本金1億円以下でも、基準年度(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度)の所得金額の年平均が15億円を超える法人は「適用除外事業者」に当たり、軽減税率などの一部の優遇が使えません(No.5432注1・No.5759注2)。中小規模の会社では稀ですが、要件として押さえておきましょう。
通算法人(グループ通算制度)
グループ通算制度を適用している法人は、通常の単体法人とは異なる判定・税率計算が行われます。中小通算法人に該当するか、大通算法人に該当するか、通算グループ内に適用除外事業者があるかによって、軽減税率や中小企業向け特例の取扱いが変わるため、個別確認が必要です(No.5759・No.5900)。詳細はグループ通算制度の解説を確認してください。
中小企業が受けられる主な税務上の優遇(一覧)
判定をクリアした中小企業には、次のような優遇があります。いずれも制度ごとに要件・限度額・適用期限が異なるため、代表的なものを一覧で示します(詳細は各制度の一次情報・個別記事を参照)。
| 優遇制度 | 概要 | 判定区分 |
|---|---|---|
| 法人税の軽減税率 | 年800万円以下の所得に15%(本則19%)。令和7年4月1日以後開始事業年度は、所得金額が年10億円を超える事業年度で17% | 中小法人 |
| 少額減価償却資産とは|10万・20万・40万円の使い分けと即時償却 | 取得価額40万円未満の資産を一括で損金算入(年間合計300万円まで)。令和8年度改正で30万円未満から引き上げ・従業員400人以下等の要件 | 中小企業者等 |
| 交際費の定額控除 | 交際費のうち年800万円まで損金算入(または接待飲食費の50%) | 中小法人 |
| 欠損金の繰戻し還付 | 赤字を前期の黒字と相殺して法人税の還付を受けられる | 中小法人 |
| 欠損金の繰越控除 | 繰り越した欠損金を所得の全額(大法人は50%)まで控除できる | 中小法人 |
| 貸倒引当金の特例 | 法定繰入率による繰入れが認められる | 中小法人 |
※軽減税率15%の特例は、令和9年3月31日までに開始する各事業年度に適用されます(令和7年度改正で2年延長)。少額減価償却資産の特例は、令和8年度改正で取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ(令和8年4月1日以後取得分/それ以前の取得は30万円未満)、対象法人が見直され(中小企業者は常時使用従業員400人以下、一定の組合等は300人以下)、適用期限が令和11年3月31日まで延長されました。交際費の800万円定額控除では、1人あたり1万円以下の社外飲食費は交際費等から除かれます。いずれも租税特別措置法に定める適用期限つきの特例で、税率・金額・期限は税制改正で変わるため、適用時点の最新情報を必ず確認してください(参照:2026年7月時点、No.5759・No.5432、財務省令和8年度税制改正大綱、中小企業庁)。
自社が該当するかの確認手順
自社が中小向けの優遇を受けられるかは、次の順で確認すると整理しやすくなります。
- 決算期末の資本金(出資金)が1億円以下かを確認する。
- 株主構成を確認する。大法人による完全支配関係がないか、大規模法人に2分の1/3分の2以上を出資されていないか。
- 所得水準を確認する。前3年(基準年度)平均所得が15億円を超えていないか(適用除外事業者に当たらないか)。
- 使いたい制度が「中小法人」向けか「中小企業者」向けかを確認し、制度ごとの要件・限度額・適用期限を個別に確認する。
多くの制度は事業年度終了の時の資本金や株主構成で判定するため、増資や株主異動があった場合は特に注意が必要です。ただし、少額減価償却資産の特例のように、取得日・事業供用日の現況で中小企業者に当たるかを判定する制度もあります(No.5408)。使う制度ごとに判定時点を確認しましょう。
まとめ
- 税務上の中小企業は、資本金1億円以下が出発点。
- ただし「中小法人(法人税法上)」と「中小企業者(措置法上・大規模法人の出資で追加判定)」で範囲が異なる。
- 大法人による完全支配、大規模法人の2分の1/3分の2出資、基準年度(前3年)平均所得15億円超(適用除外事業者)などに当たると、中小扱いから外れる制度がある。
- 中小企業には軽減税率15%、少額減価償却の特例、交際費の800万円定額控除、欠損金の繰戻し還付など多くの優遇がある。
- 制度ごとに要件・限度額・適用期限が異なるため、使う制度に応じて一次情報で確認し、判断に迷う場合は税理士へ相談を。
根拠・参考(一次情報)
- 国税庁タックスアンサー No.5432「措置法上の中小法人及び中小企業者」(令和7年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5432.htm - 国税庁タックスアンサー No.5759「法人税の税率」(令和7年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm - 中小企業庁「少額減価償却資産の特例」「法人税率の軽減」「交際費課税の特例」(令和8年度改正対応)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tokurei/syougaku_shisan.html - 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(少額減価償却資産の特例=40万円未満・従業員400人超除外・令和11年3月31日まで延長)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm - 法人税法第66条(各事業年度の所得に対する法人税の税率)/e-Gov法令検索(法令ID:340AC0000000034)
- 租税特別措置法 第42条の3の2・第67条の5・第61条の4・第66条の12(法令ID:332AC0000000026)/e-Gov法令検索
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.04 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

