「法人で生命保険に入れば保険料が経費になって節税になる」——ひと昔前の中小企業では半ば常識のように語られていた話です。しかし2019年(令和元年)の法人税基本通達改正により、いわゆる「全損保険」「バレンタインショック」と呼ばれる大きなルール変更があり、状況は一変しました。国税庁の法人税基本通達9-3-5の2では、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものについて、資産計上ルールが定められています。
現在の法人保険は、「保険料を払った瞬間に得をする節税商品」ではなく、「保障を確保しつつ課税のタイミングをずらす(課税の繰り延べ)ツール」と考えるのが正解です。この記事では、次の3点を順番に解説します。
- 法人契約の生命保険の保険料が損金になる基本ルール
- 2019年改正で導入された「最高解約返戻率」による資産計上の4区分
- 規制後の実務と、解約返戻金=益金という「出口」の設計方法
まず大前提:法人保険の「節税」は課税の繰り延べ
法人保険の税務を理解するうえで、最初に押さえるべきはこの1点です。
保険料を損金にして減らした税金は、解約返戻金を受け取ったときに「益金(利益)」として戻ってくる。
たとえば毎年500万円の保険料を10年払い、解約時に4,500万円の解約返戻金を受け取ったとします。払い込み時に保険料が損金になって法人税が減っても、解約時には返戻金が収益(雑収入)として課税対象になります。つまり税金が消えるのではなく、課税される時期が後ろにずれるだけです。
それでも法人保険が活用されるのは、次のような実益があるからです。
- 経営者に万一があったときの保障(借入金の返済原資・運転資金・遺族の生活資金)
- 利益の出ている期の税負担を平準化し、将来の大きな損金(役員退職金など)とぶつける時間差の設計ができる
- 契約者貸付など、緊急時の資金調達手段になる
「節税になるから入る」のではなく、「保障が必要で、ついでに課税タイミングを設計できる」という順番で考えましょう。
損金算入の基本ルール:保険の種類でこう変わる
法人が契約者、役員・従業員が被保険者となる生命保険の経理処理は、大きく次のように分かれます。
| 保険の種類 | 保険料の基本的な取り扱い |
|---|---|
| 掛け捨ての定期保険(解約返戻金がほぼない) | 原則、期間の経過に応じて全額損金 |
| 解約返戻金のある定期保険・第三分野保険(医療保険等) | 最高解約返戻率に応じて一部を資産計上(後述の4区分) |
| 終身保険(死亡保険金受取人が法人) | 貯蓄性が高いため全額資産計上(損金にならない) |
| 養老保険(福利厚生プラン) | 一定の要件下で保険料の1/2を損金(ハーフタックスプラン) |
節税の文脈で問題になるのは主に2行目、「解約返戻金があるのに保険料が損金になる定期保険」です。かつては「全額損金なのに数年後に90%前後が戻ってくる」商品が乱売され、これが2019年の規制につながりました。
ただし、保険金・給付金の受取人が被保険者本人や遺族となる契約で、役員や特定の使用人だけを対象にしている場合は、法人の損金ではなく、その役員・使用人への給与として扱われることがあります。法人保険では、上記の資産計上ルール以前に「契約者・被保険者・受取人」の組み合わせ確認が必須です。
【本題】実務上は「最高解約返戻率」で4パターンに分けて考える
2019年6月に法人税基本通達が改正され(法人税基本通達9-3-5の2の新設)、2019年7月8日以後に契約した保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険は、「最高解約返戻率」(保険期間中で解約返戻率が最も高くなる時点の率)に応じて、保険料の一部を資産計上することになりました。
4区分の早見表
| 最高解約返戻率 | 資産計上期間 | 資産計上額(=損金にならない部分) | 資産の取り崩し(追加損金)期間 |
|---|---|---|---|
| 50%以下 | なし | なし(全額損金) | — |
| 50%超〜70%以下 | 保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料の40%(60%は損金) | 保険期間の75%経過後から終了日まで均等 |
| 70%超〜85%以下 | 保険期間の当初40%の期間 | 支払保険料の60%(40%は損金) | 保険期間の75%経過後から終了日まで均等 |
| 85%超 | 保険期間開始から最高解約返戻率となる期間の終了日まで※ | 当初10年間:支払保険料 × 最高解約返戻率 × 90% 11年目以降:× 70% |
解約返戻金が最高額となる時期の経過後から終了日まで均等 |
※85%超の資産計上期間は、最高解約返戻率の期間経過後も「解約返戻金の年間増加分 ÷ 年換算保険料」が7割を超える期間があればその終了日まで延長。また資産計上期間は最低5年(保険期間10年未満の場合は保険期間の50%相当期間)とされます。
具体例で確認
例1:最高解約返戻率68%・年間保険料100万円・保険期間30年の長期平準定期保険
- 当初12年間(30年×40%):損金60万円+資産計上40万円/年
- 13年目〜22.5年目:全額損金(100万円)
- 22.5年目以降(保険期間の75%経過後):支払保険料100万円+資産計上累計の均等取り崩し分が損金
例2:最高解約返戻率90%・年間保険料100万円
- 当初10年間の資産計上額:100万円 × 90% × 0.9 = 81万円(損金はわずか19万円)
- 11年目以降の資産計上期間:100万円 × 90% × 0.7 = 63万円(損金37万円)
改正前に「全損・返戻率85%超」で売られていたタイプは、いまや保険料の8割前後が資産計上となり、「払えばすぐ損金」という旨味はほぼ消滅しました。返戻率が高いほど損金枠が削られる、きわめて合理的な設計になっています。
中小企業に重要な「年30万円以下」の特例
最高解約返戻率が50%超70%以下の定期保険等であっても、被保険者1人あたりの年換算保険料相当額が合計30万円以下(複数契約はすべての保険会社の契約を合算)であれば、資産計上ルールの対象外となり、原則として期間の経過に応じて損金算入できます。つまり返戻率が50%を超えていても、少額であれば例外的に全額損金の扱いが認められるということです。少額契約で保障と損金を両立させたい中小企業には、実務上いちばん使い勝手のよい枠です。
なお、これとは別に、解約返戻金相当額のない短期払いの医療保険・がん保険などについても、被保険者1人につき、その事業年度に支払った保険料の合計額が30万円以下であれば、支払時に損金算入する処理が認められます(令和元年10月8日以後契約分)。こちらは「年換算保険料相当額」ではなく、「その事業年度に支払った保険料」で判定する点に注意が必要です。
「名ばかり節税」への規制はその後も続いている
2019年改正のあとも、抜け道的な商品・スキームには次々と網がかけられました。
- 名義変更プラン(低解約返戻金型逓増定期保険)への規制(2021年)
法人で保険料を払い、解約返戻金が低い時期に契約を役員個人へ名義変更し、直後に返戻率が跳ね上がるタイミングで個人が解約する——という所得移転スキームが流行しました。2021年6月の所得税基本通達36-37の改正で、名義変更時の評価額は「解約返戻金が資産計上額の70%未満なら資産計上額で評価」となり、このプランの旨味は封じられました(2019年7月8日以後契約・2021年7月1日以後の名義変更分から適用)。 - 金融庁・国税庁による監視の常態化
節税効果を過度に強調する募集への行政指導や情報連携が続いており、「税務メリット先行」の商品設計・販売は継続的に是正されています。
歴史的に見ると、法人保険の税務は「新商品→流行→通達改正で封鎖」の繰り返しです。「今だけ使える節税保険」という営業トークこそ、最大の警戒サインと考えてください。
出口設計がすべて:解約返戻金は「益金」になる
法人保険の成否を分けるのは、入口(損金算入率)ではなく出口です。
解約時の課税のしくみ
雑収入(益金)= 解約返戻金 − それまでの資産計上額の累計
全額損金タイプ(返戻率50%以下や30万円特例)なら資産計上がゼロなので、解約返戻金がまるごと益金になります。何も手当てをせずに解約すると、繰り延べてきた税金をその期に一括で払うだけの結果になりかねません。
出口の王道は「大きな損金とぶつける」
益金が立つ期に、同額規模の損金を用意して相殺するのが基本形です。
- 役員退職金と相殺する(最も一般的)
経営者の勇退時期に解約返戻率のピークが来るよう保険期間を設計し、解約益を退職金の損金で吸収します。退職金は受け取る側でも退職所得控除・2分の1課税で税負担が軽く、法人・個人トータルで効果が出ます(詳細は役員退職金の記事参照)。 - 大型の設備投資・修繕、赤字期の解約
大規模修繕や業績悪化で赤字が見込まれる期に解約し、益金を損失と相殺する方法です。 - 一括解約せず「払済保険」への変更や部分解約で益金を分散
解約のタイミングを分割し、益金を複数期に分けて平準化する手もあります(払済変更時には洗替経理が必要な場合があります)。
出口設計で失敗する典型パターン
- 解約返戻率のピーク(多くの商品で数年〜十数年の一時期だけ)と退職時期がずれ、返戻率が下がってから解約して元本割れ
- 退職金を払う予定だった役員が続投し、益金だけが立って課税
- 保険料の支払いが資金繰りを圧迫し、ピーク前に中途解約して損失
「いつ・何の損金とぶつけるか」を契約前に決められないなら、その保険は入るべきではない——これが規制後の実務の結論です。
規制後のいま、法人保険をどう位置づけるか
- 保障目的が第一:経営者の死亡・就業不能リスクに備える掛け捨て定期保険(返戻率50%以下)は全額損金で、本来の目的に最もかなう
- 課税繰り延べ+退職金原資:返戻率70%以下のクラスや30万円特例を軸に、出口(退職時期)から逆算して設計
- 代替・併用の選択肢:経営セーフティ共済(掛金月20万円まで損金・40か月で100%戻り)、小規模企業共済(個人の所得控除)、企業型DC・iDeCoプラスなど、保険以外の制度と比較してから決める
- 「全損で高返戻率」をうたう提案は原則疑う:現行ルール上ほぼ成立しないか、将来の通達改正リスクを抱えたスキームの可能性が高い
まとめ
- 法人保険の「節税」の正体は課税の繰り延べ。税金は消えず、出口で益金として戻ってくる
- 2019年改正(法人税基本通達9-3-5の2、2019年7月8日以後契約分)により、最高解約返戻率50%以下/50%超70%以下/70%超85%以下/85%超の4区分で保険料の資産計上が義務化
- 損金にできる割合の目安:50%以下=全額、70%以下=60%、85%以下=40%、85%超=当初10年は1割前後
- 年換算保険料30万円以下(返戻率70%以下)の全額損金特例は中小企業の実務で有用
- 名義変更プランも2021年の所得税基本通達改正で封鎖。「抜け道商品」は遅かれ早かれ規制される
- 成否を決めるのは出口設計。解約返戻金(益金)を役員退職金などの損金とぶつける計画を、契約前に固めることが必須
保険は本来、リスクに備えるための商品です。保障ニーズ・資金繰り・退職プランを一体で考え、税理士と保険の専門家の両方に相談したうえで意思決定しましょう。
監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.04 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者
本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。

