売掛金や貸付金が回収できなくなったとき、「もう回収できないのだから経費にしたい」と考えるのは自然なことです。しかし法人税では、回収できない=すぐ損金、とはなりません。貸倒損失として損金算入できるのは、国税庁が示す3つの類型のいずれかに当てはまる場合に限られ、タイミングを誤ると税務調査で否認されるリスクがあります。この記事では、貸倒損失が認められる3つのケースと損金算入の時期、仕訳例、消費税の調整、そして否認されないための証拠資料まで、中小企業の実務目線で整理します。
貸倒損失とは|「回収できない=すぐ経費」ではない
貸倒損失とは、得意先の倒産などで売掛金・貸付金などの金銭債権が回収不能になったときに計上する損失です。法人税法22条3項の損金に該当しますが、恣意的な利益調整に使われやすいため、実務では法人税基本通達9-6-1〜9-6-3が示す3つの類型に沿って判定されます(参照:国税庁タックスアンサーNo.5320、2026年7月確認・令和7年4月1日現在法令等)。
3つの類型は次のとおりです。
| 類型 | 通達 | 対象債権 | 損金算入 |
|---|---|---|---|
| 法律上の貸倒れ | 法基通9-6-1 | 金銭債権全般 | 切捨ての事実が生じた事業年度に損金算入(損金経理不要) |
| 事実上の貸倒れ | 法基通9-6-2 | 金銭債権全般 | 全額回収不能が明らかになった事業年度に損金経理 |
| 形式上の貸倒れ | 法基通9-6-3 | 売掛債権のみ | 取引停止後1年以上経過等で、備忘価額を控除して損金経理 |
どの類型に当たるかで「いつ」「いくら」損金にできるかが変わります。順に見ていきます。
類型1:法律上の貸倒れ(法基通9-6-1)
会社更生法・民事再生法などの法的手続や、債権者集会の協議決定などにより、債権が法的に切り捨てられた場合です。具体的には次のような事実が該当します。
- 会社更生法、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律、会社法、民事再生法の規定により切り捨てられた金額
- 法令の規定による整理手続によらない債権者集会の協議決定や、行政機関・金融機関などのあっせんによる協議で、合理的な基準によって切り捨てられた金額
- 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、弁済を受けることができない場合に、その債務者に対して書面で明らかにした債務免除額
この類型のポイントは、切り捨てられた金額が、その事実が生じた事業年度の損金に算入されることです。会社が損金経理(帳簿上で費用計上)していなくても、税務上は当然に損金となります。逆に言えば、計上する事業年度を後ろにずらすことはできません。
書面による債務免除を使う場合は、内容証明郵便など日付と内容が客観的に残る方法で行うのが実務上の定石です。債務者に支払能力があるのに債務免除をすると、損金ではなく寄附金や交際費と認定されるおそれがある点にも注意してください。
類型2:事実上の貸倒れ(法基通9-6-2)
債務者の資産状況や支払能力などからみて、金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合です。その明らかになった事業年度に、貸倒れとして損金経理することで損金算入できます。
この類型は要件が厳しく、次の点に注意が必要です。
- 全額が回収不能であることが必要です。一部でも回収の見込みがあれば、その債権について貸倒損失は計上できません。
- 担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ損金経理できません。
- 保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象になりません。
- 法律上の貸倒れと異なり、損金経理が要件です。決算で費用計上して初めて損金になります。
「全額回収不能が明らか」といえるかは、債務者の破産・失踪・廃業の状況、資産や他の債権者の状況などの事実関係で判断されます。判断に迷うケースが多い類型なので、証拠資料(後述)を揃えたうえで税理士に相談することをおすすめします。
類型3:形式上の貸倒れ(法基通9-6-3)
継続的に取引していた得意先との売掛債権に限って認められる、簡便的な取扱いです。次のいずれかの事実があれば、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を、貸倒れとして損金経理できます。
- 継続的な取引を行っていた債務者の資産状況・支払能力等が悪化したため取引を停止し、取引停止の時と最後の弁済の時などのうち最も遅い時から1年以上経過したとき(担保物がある場合を除く)
- 同一地域の債務者に対する売掛債権の総額が取立費用より少なく、支払を督促しても弁済がないとき
この類型の注意点は次の3つです。
- 対象は売掛債権(売掛金・受取手形など)のみで、貸付金は含まれません。
- 不動産取引のように、たまたま取引を行った債務者に対する売掛債権には適用されません。あくまで継続的な取引先が対象です。
- 全額を落とすのではなく、備忘価額(実務上は1円とするのが一般的)を帳簿に残す必要があります。備忘価額を残すことで「債権を管理し続けている」ことを形式的に示します。
仕訳例と消費税の取扱い
仕訳例
税込110万円(消費税率10%)の売掛金が回収不能になったケースで見てみます。
事実上の貸倒れ(全額回収不能)の場合:
(借方)貸倒損失 1,100,000円 /(貸方)売掛金 1,100,000円
形式上の貸倒れ(取引停止後1年以上経過)の場合は、備忘価額1円を残します。
(借方)貸倒損失 1,099,999円 /(貸方)売掛金 1,099,999円
消費税の調整(貸倒れに係る税額控除)
課税売上げにかかる売掛金等が貸倒れになった場合は、貸倒れが発生した課税期間の売上げに対する消費税額から、貸倒れ金額に対応する消費税額を控除できます(参照:国税庁タックスアンサーNo.6367、2026年7月確認・令和7年4月1日現在法令等)。
標準税率10%の場合、税込の貸倒れ金額に110分の7.8を乗じた金額(1円未満切捨て)を国税分の消費税額から控除します(軽減税率8%対象は108分の6.24。地方消費税は申告書上あわせて調整されます)。上の例では、1,100,000円 × 7.8/110 = 78,000円が国税分の控除額です。
この控除を受けるには、債権の切捨ての事実を証する書類など、貸倒れの事実を明らかにする書類の保存が必要です。免税事業者には適用がありません。また、消費税の課税対象外の債権(貸付金など)は対象外です。
貸倒引当金との違い・使い分け
貸倒損失が「回収不能が確定した債権を落とす」ものであるのに対し、貸倒引当金は「将来の貸倒れに備えてあらかじめ費用を見積もる」ものです。
税務上の貸倒引当金の繰入れ(法人税法52条)は、現在は中小法人等(資本金1億円以下の法人など。ただし資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある、いわゆる100%子会社や、大通算法人などを除く)や銀行・保険会社等に適用が限定されています(参照:国税庁タックスアンサーNo.5501、2026年7月確認・令和7年4月1日現在法令等)。得意先の経営悪化の兆候はあるがまだ3類型のいずれにも該当しない、という段階では、要件を満たせば個別評価による貸倒引当金の繰入れを検討する、というのが実務の流れです。
赤字になるほど大きな貸倒れが発生した場合は、欠損金として翌期以降に繰り越すことができます。詳しくは「欠損金の繰越控除とは|赤字は何年繰り越せる?中小企業の扱いを解説」をご覧ください。
税務調査で否認されないための証拠資料
貸倒損失は税務調査で確認されやすい項目です。類型ごとに、次のような資料を保存しておきましょう。
- 法律上の貸倒れ:更生計画・再生計画の認可決定書、債権者集会の協議決定の書面、債務免除の通知書(内容証明郵便の控え)など
- 事実上の貸倒れ:債務者の決算書・登記情報、破産手続の資料、督促の記録、回収努力の経緯をまとめたメモ、担保物の処分記録など
- 形式上の貸倒れ:取引停止の時期と最終弁済日がわかる帳簿・記録、督促の記録など
いずれの類型でも、「いつ・どの事実に基づいて回収不能と判断したか」を書面で説明できる状態にしておくことが、否認リスクを下げる最大のポイントです。
まとめ
- 貸倒損失が損金になるのは、法律上の貸倒れ(9-6-1)・事実上の貸倒れ(9-6-2)・形式上の貸倒れ(9-6-3)の3類型のいずれかに該当する場合です。
- 損金算入のタイミングは類型ごとに決まっており、法律上の貸倒れは事実発生年度に自動的に損金、事実上・形式上の貸倒れは損金経理が要件です。
- 課税売上げの売掛金等が貸倒れたときは、消費税の貸倒れに係る税額控除もあわせて検討します。
- 判断に迷うケースや金額が大きいケースは、証拠資料を揃えたうえで税理士に相談してください。
- 国税庁タックスアンサー No.5320「貸倒損失として処理できる場合」(令和7年4月1日現在法令等・2026年7月確認)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5320.htm - 国税庁タックスアンサー No.6367「貸倒れに係る税額の調整」(令和7年4月1日現在法令等・2026年7月確認)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6367.htm - 国税庁タックスアンサー No.5501「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」(令和7年4月1日現在法令等・2026年7月確認)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5501.htm - 国税庁 法人税基本通達 第9章第6節「貸倒損失」(9-6-1〜9-6-3)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_06_01.htm - 法人税法22条3項・52条、消費税法39条(e-Gov法令検索で条文確認・2026年7月)
監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.04 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者
本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。

