決算を迎える前に「思ったより利益が出そうだ」というとき、従業員へ決算賞与を支給して、その事業年度の損金(経費)に落とす——これは中小企業でよく使われる節税・還元の手段です。
ただし、賞与の支払は決算日を過ぎてからになることも多く、「まだ払っていない賞与を、当期の損金にできるのか?」という疑問が生じます。結論から言うと、後述の3要件をすべて満たせば、未払でも当期の損金にできます。逆に、要件を1つでも欠くと、支払った翌期の損金になってしまい、狙った節税効果が得られません。
この記事では、使用人(従業員)への決算賞与を当期の損金にするための要件を、国税庁の一次情報に基づいて解説します。
決算賞与とは
決算賞与とは、通常の夏・冬のボーナスとは別に、決算期末の業績に応じて従業員へ支給する臨時の賞与です。利益が出た事業年度に従業員へ還元しつつ、損金として計上することで法人税の負担を抑える狙いがあります。
ここで問題になるのが「いつの事業年度の損金になるか(損金算入時期)」です。原則と例外を正しく理解しないと、当期に落とすつもりが翌期の損金になってしまいます。
使用人賞与の損金算入時期は原則「支払った事業年度」
法人が使用人(従業員)に支給する賞与の損金算入時期は、賞与の区分に応じて決まります(国税庁タックスアンサー No.5350「使用人賞与の損金算入時期」)。大きく次の3区分です。
- 労働協約・就業規則で支給予定日が定められている賞与(支給額が使用人に通知され、かつ支給予定日または通知日の属する事業年度に損金経理したものに限る):支給予定日または通知日のいずれか遅い日の属する事業年度。
- 一定の3要件を満たす賞与(=決算賞与として当期損金にできるもの):使用人へ支給額を通知した日の属する事業年度。
- 上記以外の賞与:実際に支払った日の属する事業年度。
区分1(労働協約・就業規則で支給予定日が定められている賞与)について: 労働協約または就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与で、使用人に支給額が通知され、かつその支給予定日または通知日の属する事業年度に損金経理しているものは、支給予定日または通知日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金になります。
つまり、原則(区分3)は「支払った事業年度」の損金です。決算前に賞与を決めても、実際の支払が翌期になれば、原則では翌期の損金になってしまいます。当期の損金にするには、次章の区分2の3要件を満たす必要があります。
未払でも当期の損金にできる3要件
決算賞与を「未払計上」で当期の損金にするには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります(No.5350、法人税法施行令72条の3第2号、法人税基本通達9-2-43〜9-2-44)。
要件1:各人別に、同時期の全使用人へ通知
その支給額を、各人別に、かつ同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知していること。「全員にいくら払うか」を事業年度内に個別に伝える、ということです。
通知は「確定」していることが前提です。 通知の時点で、支給額と支給対象者が最終的・確定的に決まっている必要があります。「今後一定の条件を満たした場合に支給する」といった条件付きの通知では、通知要件を満たさない可能性があります。
要件2:事業年度末の翌日から1か月以内に支払
要件1で通知した金額を、通知したすべての使用人に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。3月決算なら、原則として4月末までに実際に支払う必要があります(支払期限は決算月によって変わります)。
要件3:通知した事業年度に損金経理
その支給額について、通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。決算で未払賞与として費用計上しておく、ということです。
3要件は「セット」です。 通知・1か月以内の支払・損金経理のいずれか1つでも欠けると、区分2に当たらず、原則どおり「支払った事業年度(=翌期)」の損金になります。
つまずきやすい注意点
「支給日に在職する人だけ」に支給する規定はNG
就業規則などで「賞与支給日に在職している使用人にのみ支給する」と定めている場合、その支給額の通知は、要件1の「通知」に該当しません(No.5350 注1、法人税基本通達9-2-43)。支給日在職を条件にすると、期末時点では誰にいくら払うかが確定していないとみなされ、当期損金にできなくなります。決算賞与で当期損金を狙うなら、この点は特に注意が必要です。
通知・支払の証拠を残す
各人別の通知書や、通知に対する従業員の確認、1か月以内に支払った振込記録などを残しておくことが実務上重要です。税務調査では、通知の事実と支払時期が確認されます。
役員への決算賞与は対象外
ここまでは使用人(従業員)の賞与の話です。役員への賞与は扱いが全く異なり、原則として損金になりません。役員に賞与を損金として支給するには、あらかじめ事前確定届出給与の届出が必要です。なお、使用人兼務役員に支給する賞与のうち、使用人としての職務に対応する部分の金額は、使用人賞与としての取扱いの対象に含まれます。
役員賞与の損金算入の仕組みと届出期限は、こちらで詳しく解説しています。→ 役員賞与を損金にする方法|事前確定届出給与の仕組みと届出期限
まとめ
- 使用人賞与の損金算入時期は、原則として「支払った事業年度」(No.5350)。
- 未払でも当期の損金にするには、①各人別に同時期の全使用人へ通知、②事業年度末の翌日から1か月以内に支払、③通知した事業年度に損金経理、の3要件をすべて満たす必要がある。
- 3要件は1つでも欠けると当期損金にできない。特に「支給日在職者のみ支給」とすると通知要件を満たさない。
- 役員への賞与は別扱い(原則損金不算入。事前確定届出給与が必要)。
- 通知・支払の証拠を残し、判断に迷う場合は税理士へ相談を。
根拠・参考(一次情報)
- 国税庁タックスアンサー No.5350「使用人賞与の損金算入時期」(令和7年4月1日現在法令等)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm - 法人税法施行令第72条の3(使用人賞与の損金算入時期)/法令ID:340CO0000000097/e-Gov法令検索
- 法人税基本通達9-2-43〜9-2-44(第8款 使用人賞与)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_08.htm
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.04 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

