中小企業向け賃上げ促進税制|令和8年度改正後の控除率・5年繰越を解説

中小企業向け賃上げ促進税制 最新の税制改正
税理士が執筆・監修
条文と実務経験にもとづき、最新の税制改正を反映して解説しています
令和8年度税制改正(成立・施行済み)に基づく。国税庁No.5927-2は令和7年4月1日現在法令等(改正前)のため、経済産業省・中小企業庁の最新資料を併用

「従業員の給料を上げたいけれど、税負担が心配」という中小企業の経営者・経理担当者の方へ。賃上げ促進税制(租税特別措置法第42条の12の5)は、前年度より給与等支給額を増やした中小企業が、増加額の一定割合を法人税額から直接差し引ける制度です。うまく活用すれば、賃上げコストの一部を税額控除という形で回収できます。

本記事では、令和8年度税制改正後の中小企業向け賃上げ促進税制を中心に解説します。令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、教育訓練費に係る10%の上乗せ措置が廃止され、最大控除率は35%となりました。なお、令和6年4月1日から令和8年3月31日までに開始する事業年度については、改正前の制度により最大45%の控除率が適用されます。

重要な前置き

賃上げ促進税制は改正頻度が高い制度です。控除率・要件・適用期限は必ず「適用事業年度時点の法令」を一次情報で確認してください。なお、国税庁タックスアンサーNo.5927-2は本記事作成時点で「令和7年4月1日現在法令等」(改正前・最大45%)のままのため、令和8年度改正後の内容は国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」および中小企業庁の最新ガイドを併用して確認してください。個別判断は税理士にご相談ください。

賃上げ促進税制とは――給与増加額の一定割合を法人税から直接控除

賃上げ促進税制は、青色申告書を提出している中小企業者等が対象年度中に国内雇用者への給与等支給額を前年度より増加させた場合に、増加額(控除対象雇用者給与等支給増加額)に一定の控除率を乗じた金額を法人税額から控除できる制度です。

税額控除とは何か

税額控除は「税率を掛けた後の法人税額」から直接差し引く仕組みです。損金算入(経費計上)とは異なり、1円の税額控除 = 1円の節税になります。法人税率に関わらず控除額がそのまま節税額になるため、インパクトが大きい優遇措置といえます。税額控除が納税額に効く流れについては「法人税の計算方法」も参照してください。

制度の根拠法令

  • 租税特別措置法 第42条の12の5(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
  • 根拠法令等:措法42の4、42の12、42の12の5、措令27の12の5、措規20の10

中小企業向けの基本要件と控除率(令和8年度改正後)

賃上げ促進税制(中小企業向け)の対象になるかの判定フロー。青色申告法人か、中小企業者等か、国内雇用者への給与等が増えているか、雇用者給与等支給額の増加率が1.5%以上かを確認し、4つを満たすと控除対象になる。
図1:自社が対象になるかの判定フロー(4つの判定をすべて満たすと控除の対象。現行の最大は35%)
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対象法人(中小企業者等)の定義

区分 要件
資本金がある法人 資本金の額または出資金の額が 1億円以下
資本・出資を有しない法人 常時使用する従業員数が 1,000人以下

このほか、中小企業等協同組合、一定の商工組合、農業協同組合などの協同組合等も対象になります。

ただし、大規模法人(資本金1億円超等)に発行済株式の 2分の1以上 を保有される法人、複数の大規模法人に合計 3分の2以上 を保有される法人、適用除外事業者(前3年以内の各事業年度の所得金額の年平均額が 15億円超 の法人)は対象外です。

適用できる事業年度

令和8年度改正後の中小企業向け措置は、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象です。令和6年4月1日から令和8年3月31日までに開始した事業年度には、教育訓練費上乗せを含む改正前の制度(最大45%)が適用されます。中小企業庁の現行ガイドも、令和8年4月1日から令和9年3月31日までに開始する事業年度を現在の対象期間として案内しています。

なお、改正前の全法人向け措置または中堅企業向け措置の適用を受ける事業年度には、中小企業向け措置を重複して適用できません(令和8年4月1日以後に開始する事業年度では、全法人向け措置は廃止されています)。設立事業年度、合併以外の事由による解散の日を含む事業年度、清算中の各事業年度も適用できません。

基本の適用要件

次の2つの要件をともに満たすこと。①国内雇用者に給与等を支給すること/②雇用者給与等支給額の対前年増加率 ≧ 1.5%。

計算式:(雇用者給与等支給額 − 比較雇用者給与等支給額)÷ 比較雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%
※比較雇用者給与等支給額(前事業年度の額)が0の場合は要件を満たさないものとされます。

控除の対象となる増加額(控除対象雇用者給与等支給増加額)

税額控除の計算のもとになる「控除対象雇用者給与等支給増加額」は、原則として「雇用者給与等支給額 − 比較雇用者給与等支給額」です。ただし、雇用安定助成金額を控除して計算した「調整雇用者給与等支給増加額」がこれより少ない場合は、その調整後の金額が上限となります。雇用調整助成金などの受給がある事業年度は、単純な給与総額の差額よりも控除対象額が小さくなることがあるため注意が必要です。

「国内雇用者」の範囲|役員・役員親族は含まれない

国内雇用者とは、法人の使用人のうち、その法人の役員と特殊の関係のある者等の一定の者を除いた者で、国内の事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます(措法42の12の5)。

国内雇用者の範囲から除かれるのは、法人の役員(使用人兼務役員を含みます。)および役員と特殊の関係がある者です。役員本人は国内雇用者に該当しないため、給与を役員分と使用人分に分け、使用人分だけを算入する取扱いではありません。役員と特殊の関係がある者には、役員の親族などの一定の者が含まれます。

注意点:役員報酬や役員への支給額は、たとえ実態が労働対価であっても「雇用者給与等支給額」には含まれません。同族会社で経営者や配偶者に給与を支払っている場合は特に注意が必要です。役員報酬の扱いについては「役員報酬の決め方」も参照してください。

補助金・助成金や出向負担金がある場合

雇用者給与等支給額を計算するときは、国内雇用者への給与等の支給額から、給与負担を軽減する目的で交付された一定の補助金・助成金や、出向先から受け取った出向負担金などの「補塡額」を控除します。

ただし、雇用調整助成金などの雇用安定助成金額と、一定の役務提供の対価は補塡額に含まれないため、通常の雇用者給与等支給額からは控除しません。雇用安定助成金額は、控除対象増加額の上限となる「調整雇用者給与等支給増加額」の計算で控除します。

基本控除率

給与等増加率 控除率(基本)
1.5%以上 2.5%未満 15%
2.5%以上 30%

給与等増加率が2.5%以上のときの30%は、基本15%に「高い賃上げ率」による上乗せ15%を加えたものです。税額控除限度額 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 × 控除率。控除上限は、その事業年度の調整前法人税額の20%相当額です。

認定による上乗せと控除率の組み合わせ

基本要件(増加率1.5%以上)を満たした中小企業者等は、子育て支援・女性活躍に関する認定を受けている場合、控除率が+5%上乗せされます。これにより、令和8年4月1日以後に開始する事業年度の中小企業向け控除率は次のとおりです。

控除率の組み合わせ(令和8年4月1日以後に開始する事業年度)

給与等増加率 認定なし 認定あり(+5%)
1.5%以上 2.5%未満 15% 20%
2.5%以上 30% 35%

現行制度では、基本15%・30%と認定による5%上乗せが維持され、教育訓練費による10%上乗せのみが廃止されています。したがって現行の最大控除率は35%です。

賃上げ促進税制の控除率のイメージ。中小企業向けは給与増加率1.5%以上で15%、2.5%以上で30%。認定により5%上乗せされ、現行の最大控除率は35%。教育訓練費10%上乗せは旧制度で廃止。
図2:控除率は現行で最大35%(基本30%+認定5%)。教育訓練費+10%は旧制度で廃止(令和8年3月31日までに開始した事業年度は最大45%)
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子育て・女性活躍認定(+5%)の対象認定

認定名 根拠法令 取得タイミング要件
くるみん認定・くるみんプラス認定 次世代育成支援対策推進法第13条 その事業年度中に認定(年度末までに取り消された場合を除く)
プラチナくるみん認定・プラチナくるみんプラス認定 同法第15条の3第1項 その事業年度終了時点で該当(特例認定一般事業主)
えるぼし認定(2段階目以上)・えるぼしプラス認定(2段階目以上) 女性活躍推進法第9条 その事業年度中に認定(年度末までに取り消された場合を除く)
プラチナえるぼし認定・プラチナえるぼしプラス認定 同法第13条第1項 その事業年度終了時点で該当(特例認定一般事業主)

認定の取得タイミングは、通常認定(くるみん・くるみんプラス・えるぼし等)は適用事業年度中の取得、プラチナ認定(プラチナくるみん・プラチナえるぼし等)は事業年度終了時点での取得・保持が要件です。

令和8年3月31日までに開始した事業年度の教育訓練費上乗せ(旧制度)

令和8年3月31日までに開始した事業年度では、教育訓練費を増やした場合に+10%の上乗せがありました(令和8年4月1日以後開始事業年度から廃止)。この旧制度では、認定上乗せ+5%とあわせて最大45%まで控除率が上がりました。

旧制度の控除率の組み合わせ(令和8年3月31日までに開始する事業年度)

給与等増加率 基本 +教育訓練費 +認定 +教育訓練費+認定
1.5%以上 2.5%未満 15% 25% 20% 30%
2.5%以上 30% 40% 35% 45%

教育訓練費の要件(旧制度)の留意点

教育訓練費が前年比5%以上増加し、かつ雇用者給与等支給額の0.05%以上であることが要件でした。対象となる費用・ならない費用は次のとおりです。

  • 対象となるもの:外部講師への報酬・謝金、外部講師を招聘するために会社が負担する交通費・旅費・宿泊費・食費、外部施設・設備の賃借料やコンテンツ使用料、他者へ委託して行う教育訓練の委託費、他者が行う研修等への参加費(授業料・受講料等)など。
  • 対象とならないもの:研修を受講する自社の従業員の旅費・交通費・宿泊費、自社の役員・使用人が講師を務めた場合の講師人件費、自社施設の光熱費・維持費、設備・教材の取得費用など。
  • 書類の保存:確定申告書への添付は不要だが、実施時期・内容・対象となる国内雇用者の氏名、費用の支出年月日・内容・金額・相手先を記載した書類を自社で保存する必要があった。

控除額の上限と赤字企業向けの繰越控除措置

税額控除の上限

税額控除限度額が、その事業年度の調整前法人税額の20%相当額を超える場合、控除できる金額は20%相当額が上限となります。

例:調整前法人税額200万円の場合 → 控除上限は200万円 × 20% = 40万円

繰越控除措置(令和6年度改正で新設)

税額控除限度額が調整前法人税額の20%を超えて控除しきれなかった場合、その控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)を5年間繰り越すことができます(令和6年4月1日以後開始事業年度から適用)。

  • 賃上げ維持が必要な年度:賃上げ要件(雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていること)が必要となるのは、繰越期間中のすべての年度ではなく、実際に繰越控除を受ける事業年度です。
  • 合計での20%上限:当期分の税額控除と繰越分を同時に使う場合でも、両者の合計で調整前法人税額の20%相当額が上限となります。
  • 中小企業者等でなくなっても使える場合がある:繰越控除を使う年度に中小企業者等に該当しなくなっていても、青色申告書を提出し、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えるなどの要件を満たせば適用できます。また、未控除額が発生した事業年度以後は、実際に控除を使わない年度も含め、各事業年度の申告書に繰越明細書を継続して添付する必要があります。
税額控除額の計算例。給与の増加額300万円、控除率30%なら控除額は90万円。ただし調整前法人税額の20%が上限となり、法人税額200万円なら上限40万円。当期で使い切れない50万円は一定要件のもと5年間繰越できる。
図3:控除額の計算と「調整前法人税額の20%」上限・5年繰越のイメージ(数値は仕組みを示す一例)
※スマホでは横スクロール、タップで拡大できます

ポイント:赤字で法人税額がゼロの年度でも、賃上げを実施していれば控除しきれなかった額を繰り越せます。業績回復後に最大5年間使えるため、先行投資として賃上げを行いやすくなりました(ただし繰越控除を受ける年度に賃上げ維持要件を満たす必要があります)。

令和8年度改正による変更点|教育訓練費の上乗せを廃止

令和8年度税制改正により、企業規模にかかわらず教育訓練費に係る上乗せ措置が廃止されました。中小企業向け措置は、基本的な枠組み(基本要件・基本控除率・認定による上乗せ・繰越控除)を維持したうえで、教育訓練費の上乗せのみが廃止されています。

  • 廃止されたもの:教育訓練費の増加による10%上乗せ
  • 維持されるもの:基本15%(1.5%以上)・30%(2.5%以上)、認定(くるみん・えるぼし等)による5%上乗せ、繰越控除5年
  • 適用時期:法人は令和8年4月1日以後に開始する事業年度から。令和8年3月31日までに開始した事業年度は、改正前の制度(教育訓練費上乗せを含め最大45%)が適用されます。
  • 結果:令和8年4月1日以後に開始する事業年度の中小企業向け最大控除率は35%(基本30%+認定5%)です。

参考(本記事の主題外):令和8年度改正では、大企業向け措置は令和8年3月31日で廃止中堅企業向け措置は要件を厳格化した上で令和9年3月31日で廃止とされています。

国税庁タックスアンサーNo.5927-2は本記事作成時点で「令和7年4月1日現在法令等」(改正前・最大45%)のままで、改正後の内容が反映されていません。令和8年度改正後の内容は、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」および中小企業庁(経済産業省)の最新ガイドを併用して確認してください。

手続き――確定申告書への明細添付が必須

基本フローは、①給与等の集計(役員・特殊関係者を除外し、補塡額を調整)→②適用要件の判定(増加率・認定の有無)→③税額控除額の計算→④申告書・明細書の作成・提出、です。

賃上げ促進税制の適用には、確定申告書等に次の書類を添付することが条件です(添付がない場合は適用不可)。

  • 控除の対象となる控除対象雇用者給与等支給増加額・控除を受ける金額・その計算に関する明細を記載した書類(令和8年4月1日以後終了事業年度は別表六(二十四)および付表一。重複控除額の計算が必要な場合は付表二
  • 適用額明細書
  • 繰越控除を使う場合:翌期繰越税額控除限度超過額等の明細書(超過が生じた事業年度以後、各事業年度に添付)、繰越控除を受ける金額・その計算に関する明細書

事前の届出は不要で、確定申告で要件を充足した事業年度に適用します。設立初年度(設立の日を含む事業年度)は適用できません。適用年度と前事業年度で月数が異なる場合など、比較雇用者給与等支給額の計算には調整が必要になることがあります(詳細は税理士に確認)。

まとめ|賃上げ予定なら必ず確認したい制度

確認事項 内容
対象法人 資本金1億円以下(大規模法人による一定の被支配・適用除外事業者を除く)等、青色申告書を提出する中小企業者等
基本要件 国内雇用者への給与等支給額が前年比1.5%以上増加
基本控除率 1.5%以上で15%、2.5%以上で30%(給与等増加額に対して)
認定上乗せ くるみん・えるぼし等の認定で+5%
最大控除率 35%(令和8年4月1日以後に開始する事業年度)/ 45%(令和8年3月31日までに開始した事業年度=教育訓練費上乗せ含む旧制度)
控除対象額 「雇用者給与等支給額−比較雇用者給与等支給額」。調整雇用者給与等支給増加額が少ない場合はそちらが上限
控除上限 調整前法人税額の20%相当額(当期分+繰越分の合計で判定)
繰越措置 控除しきれない場合は5年繰越(繰越控除を受ける年度に、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えることが条件)
役員給与の扱い 給与等支給額に含まれない(使用人兼務役員を含む役員・特殊関係者を除いて計算)
手続き 確定申告書等に明細書を添付して申告(事前届出不要)

賃上げを検討している中小企業の方は、適用要件・控除率・必要書類を税理士とともに事前に確認することをお勧めします。制度の詳細は改正ごとに変わるため、申告の都度、一次情報(国税庁の改正概要・中小企業庁ガイド・租税特別措置法条文)を確認してください。

次に読む

根拠・参考(一次情報):経済産業省/中小企業庁「賃上げ促進税制」(令和8年度改正後)/ 中小企業庁「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」/ 国税庁タックスアンサー No.5927-2(令和7年4月1日現在法令等=改正前ベース)/ 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」/ e-Gov法令検索「租税特別措置法」第42条の12の5(法令ID 332AC0000000026)。(参照 2026.07)

監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.14 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。

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