繰延資産の償却|企業会計にもある繰延資産(任意償却)と税法固有の繰延資産(均等償却)

繰延資産の償却 減価償却・設備投資
税理士が執筆・監修
条文と実務経験にもとづき、最新の税制改正を反映して解説しています
最終更新日:2026.07.13 / 法人税基本通達第8章・法人税法施行令14条/64条/134条(参照 2026.07)

会社を設立したときの登記費用や、開業前に使った広告費・準備費用。これらは「創立費」「開業費」として、いつ・いくら損金にできるのか——迷いやすい論点です。

法人税上の繰延資産は、①企業会計にもある創立費・開業費などと、②税法固有の権利金・負担金などに分かれます。法人税上、前者は任意償却、後者は均等償却となります。 なお、会計上は創立費・開業費なども支出時の費用処理が原則で、繰延資産に計上した場合は所定の期間で償却します。

この記事では、繰延資産とは何かを整理したうえで、2区分の償却方法の違い・償却期間・少額繰延資産の特例(20万円未満)までを、法人税法施行令14条・法人税基本通達をもとに解説します。

免責: 本記事は記載時点の法令・通達に基づく一般的な解説です。個別の判断は税理士にご相談ください。

1. 繰延資産とは|法令14条に定められた「効果が1年以上に及ぶ費用」

繰延資産とは、法人が支出する費用のうち、資産の取得価額に算入すべき費用と前払費用を除き、その支出の効果が支出の日以後1年以上に及ぶもので、法人税法施行令14条に定められたものをいいます(法人税法2条二十四、法人税法施行令14条)。

「効果が1年以上に及ぶ」だけでは足りず、取得価額に算入すべき費用や前払費用は除かれ、さらに施行令14条に列挙されたものに限られる点がポイントです。したがって、長期的な効果がありそうな広告費などがすべて繰延資産になるわけではありません。

繰延資産は、支出の効果を複数の期間に配分するための項目です。ただし、法人税上の償却方法は一律ではありません。企業会計にもある創立費・開業費などは任意償却、税法固有の権利金・負担金などは原則として均等償却となります。固定資産や前払費用と混同しやすいので、まず違いを整理します。

区分 中身 イメージ
固定資産 建物・機械・ソフトウェアなど形や権利のある資産 売れる・使える「モノや権利」
前払費用 家賃・保険料などまだ提供を受けていない役務への前払い これから受けるサービスの前払い
繰延資産 創立費・権利金など支出済みで換金性はないが効果が続く費用 「効果は続くが売れない」支出

繰延資産は換金性のある財産ではなく、あくまで支出の効果を期間配分するための計算上の資産である点がポイントです。

2. 2区分の繰延資産|企業会計にもある繰延資産と税法固有の繰延資産

法人税上の繰延資産は、次の2区分に分かれます。どちらに当たるかで法人税上の償却方法が変わるため、まずここを見分けます。

(1)企業会計にもある繰延資産(5種類)→ 法人税上は任意償却

会社法・会計のルールでも繰延資産として計上できるものは、次の5つです。

種類 主な内容
創立費 会社の設立のために支出した費用(定款作成費、設立登記の登録免許税、発起人報酬など)
開業費 設立後、開業までの間に開業準備のため特別に支出した費用(広告宣伝費、通信費など)
開発費 新技術・新市場開拓など特別に支出した費用(経常的な費用は除く)
株式交付費 企業規模拡大のための資金調達など、財務活動に係る株式交付費
社債発行費 社債発行にかかった費用

このうち中小企業で特に登場するのが、創立費開業費です。これらは法人税上、後述の任意償却ができます。

(2)税法固有の繰延資産(法令14)→ 法人税上は均等償却

企業会計にはない、法人税法施行令14条が定める税法固有の繰延資産があります。代表的なものは次のとおりです。

  • 自己が便益を受ける公共的施設・共同的施設の設置・改良のための負担金
  • 建物を賃借するための権利金・立退料など(No.5460)
  • ノウハウの頭金など、役務の提供を受けるための権利金
  • 広告宣伝用資産(看板・陳列棚など)を贈与したことによる費用
  • 同業者団体等の加入金(構成員の地位を譲渡できるもの・出資の性質を有するものを除く) など

これらは法人税上、後述の均等償却によります。

見分け方のコツ: まず「創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費」の5つに当たるか(=企業会計にもある繰延資産)を確認し、当たらなければ「権利金・負担金・加入金など」の税法固有の繰延資産かを見る、という順で判断すると整理しやすくなります。いずれも法人税上の繰延資産であり、任意償却・均等償却はどちらも法人税上の取扱いです。

繰延資産の償却の見分けフロー。企業会計にもある繰延資産は法人税上任意償却、税法固有の繰延資産は均等償却、20万円未満の少額繰延資産は損金経理により支出年度に全額損金算入できる。
図1:繰延資産の償却の見分けフロー(企業会計にもある繰延資産=任意償却/税法固有=均等償却/20万円未満は損金経理で全額)(スマホは横スクロールで拡大表示)

3. 企業会計にもある繰延資産は「任意償却」|未償却残高を限度に損金経理した額

企業会計にもある繰延資産(創立費・開業費など)は、法人税上、任意償却ができます(法人税法施行令64条1項1号)。

任意償却とは、税務上の未償却残高を限度として、確定決算で償却費等として損金経理した金額を損金算入できるしくみです(償却費以外の科目で費用処理した金額も、償却費として損金経理した金額に含まれます)。未償却残高が償却限度額になるため、実務上は次のいずれもできます。

  • 支出した初年度に全額を損金にする
  • 数年に分けて好きな金額ずつ損金にする
  • しばらく償却せず、後の事業年度に償却して損金にする

たとえば設立初年度が赤字なら、あえて償却せず、利益が出た年に償却して損金にする、といった調整が可能です。ただし、法人税上の任意償却も損金経理が前提です。会計上、繰延資産に計上したまま、申告書だけで任意の金額を損金算入することはできません。また、会計上繰延資産に計上した場合は、会計基準上の償却期間・方法にも従う必要があります。

会計上の償却との関係: 会計上、創立費・開業費・開発費などは、原則として支出時に費用処理します。ただし、繰延資産として計上することもできます。その場合、創立費・開業費は5年以内の効果が及ぶ期間にわたって定額法で償却し、開発費は支出時から5年以内の効果が及ぶ期間にわたり定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。株式交付費は3年以内の効果が及ぶ期間にわたって定額法で、社債発行費は社債の償還までの期間にわたり原則として利息法により償却します(継続適用を条件として定額法も可)。

会計上は支出時費用処理が原則で、繰延資産計上時にも所定期間での償却が求められるため、会計処理と法人税上の損金算入時期が異なる場合は申告調整が必要になります。

4. 税法固有の繰延資産は「均等償却」|月割りで償却期間にわたり損金

税法固有の繰延資産(権利金・負担金・加入金など)は、法人税上、均等償却によります(法人税法施行令64条1項2号)。任意償却のような自由な調整はできません。

各事業年度の償却限度額は、次の式で計算します。

>償却限度額 = 繰延資産の額 × 当期のうち償却期間に含まれる月数 ÷ 償却期間の月数

支出した事業年度は、原則として支出した月から事業年度末までの月数で計算し、1か月未満の端数は1か月として扱います。なお、固定資産を利用するための繰延資産で、支出時にその固定資産の建設等がまだ始まっていない場合は、建設等に着手した時から償却を開始します。

たとえば、建物を賃借するための権利金60万円を、償却期間5年(60か月)で償却し、期首から丸1年(12か月)保有した年の償却限度額は次のとおりです。

>60万円 × 12か月 ÷ 60か月 = 12万円(1年分)

実際に損金となるのは、計算上の償却限度額そのものではなく、確定決算で償却費等として損金経理した金額のうち、償却限度額までです。限度額を超えて損金経理しても、超過分は損金になりません。

繰延資産の償却費を損金算入する場合は、法人税申告書に別表十六(六)「繰延資産の償却額の計算に関する明細書」を添付し、繰延資産の額・償却期間・当期償却額などを記載します。

5. 償却期間の目安|権利金・ノウハウ頭金・公共的施設の負担金など

税法固有の繰延資産の償却期間は、資産の種類ごとに法人税基本通達(第8章第2節)で定められています。代表的なものは次のとおりです。

繰延資産の種類 償却期間の目安
建物を賃借するための権利金等(一般的なもの) 5年(賃借期間が5年未満で更新時に再度権利金が必要なものは、その賃借期間)
ノウハウの頭金等 5年(有効期間が5年未満で更新時に再度支払うものは、その有効期間)
同業者団体等への加入金(構成員の地位を譲渡できるもの・出資の性質を有するものを除く) 5年
広告宣伝用資産を贈与したことによる費用 その資産の耐用年数の10分の7(最長5年)
公共的施設・共同的施設の設置・改良の負担金 施設の用途等により 耐用年数の4/10・7/10、土地は45年、一定のアーケード等は5年、会館等の負担金は7/10で10年を超える場合は10年 など

※上表は代表例です。実際の年数は資産の内容ごとに法人税基本通達8-2-3等で確認してください。

同業者団体の加入金の注意: 加入金でも、構成員としての地位を譲渡できるもの出資の性質を有するものは繰延資産ではなく、譲渡・脱退までは資産として計上します。それ以外の加入金が繰延資産となり、原則5年で償却します。

6. 20万円未満は支出時に損金経理で全額損金|少額繰延資産の特例(法令134)

税法固有の繰延資産であっても、支出額が20万円未満のものは、均等償却によらず、支出した事業年度に全額を損金経理すれば、損金算入できます(法人税法施行令134条、少額な繰延資産)。

この20万円未満かどうかの判定単位は、費用の種類によって異なります

  • 公共的施設等の負担金:一つの設置・改良計画ごと
  • 権利金・ノウハウの頭金等:契約ごと
  • 広告宣伝用資産に係る費用:資産1個または1組ごと

分割払いにしても、設置計画等の総額で判定する場合があるため、請求書や支払回数を分ければ当然に20万円未満になる、というわけではありません

このほか、繰延資産となる一定の同業者団体等の加入金も、支出金額が20万円未満であれば、損金経理により全額を損金算入できます。

なお、企業会計にもある繰延資産(創立費・開業費など)は、そもそも任意償却で初年度に全額損金にできるため、この特例を意識する場面は主に税法固有の繰延資産です。

減価償却資産の少額判定との違い: 減価償却資産にも「10万円未満は全額損金」「20万円未満は一括償却資産」などの少額判定があります(少額減価償却資産の使い分けを参照)。繰延資産の20万円未満とは根拠条文も対象も別物なので、混同しないよう注意します。

企業会計にもある繰延資産と税法固有の繰延資産の違い。創立費・開業費など企業会計にもある繰延資産は法人税上任意償却、公共的施設の負担金や権利金など税法固有の繰延資産は償却期間に応じた均等償却となる。
図2:企業会計にもある繰延資産と税法固有の繰延資産|法人税上の償却方法の違い(スマホは横スクロールで拡大表示)

まとめ

繰延資産の償却は、「どちらの区分の繰延資産か」を最初に見分けることが出発点です。いずれも法人税上の繰延資産で、任意償却・均等償却はどちらも法人税上の取扱いです。

  • 企業会計にもある繰延資産(創立費・開業費・開発費・株式交付費・社債発行費)=法人税上は任意償却。未償却残高を限度に、損金経理した額を損金算入(初年度全額でも、後の年でもよい)。会計上は原則支出時費用処理で、計上時は所定期間で償却。
  • 税法固有の繰延資産(権利金・負担金・加入金など)=法人税上は均等償却。「繰延資産の額 × 当期のうち償却期間に含まれる月数 ÷ 償却期間の月数」で計算し、損金経理した額のうち償却限度額まで損金。
  • 20万円未満の繰延資産は、支出した年に全額を損金経理すれば損金算入できる(少額繰延資産の特例・法令134)。判定単位は費用の種類ごと。

特に会社を設立したばかりの時期は、創立費・開業費をいつ落とすかで各年の所得が変わります。会計処理と法人税上の損金算入時期が異なる場合は申告調整も生じるため、判断に迷う場合は税理士に相談すると安心です。

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監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報

本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。

最終更新日:2026.07.13 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。

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