役員退職金で節税|損金算入の適正額・功績倍率・受け取り時の税金まで解説

役員退職金の適正額と受け取り時の税金を解説するアイキャッチ画像 役員給与
税理士が執筆・監修
条文と実務経験にもとづき、最新の税制改正を反映して解説しています

役員退職金は、適正額の範囲であれば会社側で大きな損金になり、受け取る役員側でも退職所得として税負担が軽くなりやすい制度です。長年の利益の蓄積を、税負担を抑えながら経営者個人に移す手段として、中小企業でよく使われます。

ただし、金額の決め方を間違えると「不相当に高額」として損金算入を否認されたり、退職の実態がないとみなされて役員賞与扱い(損金不算入+受取側は給与課税)にされたりと、税務調査で最も争われやすいテーマでもあります。

この記事では、役員退職金の税務メリットのしくみ、適正額の計算方法(功績倍率法)、受け取り時の税金、支給前に準備しておく書類、そして2026年1月から始まった「10年ルール」まで、順番に解説します。

免責: 本記事は記載時点の法令・通達に基づく一般的な解説です。税率・金額・改正時期は変わることがあり、税額計算例は概算です。個別の適用可否は事実関係により異なるため、最終的な判断は税理士にご相談ください。

役員退職金の税務メリットが大きい3つの理由

役員報酬や決算賞与と比べて、役員退職金には次のような税務上のメリットが揃っています。

  1. 会社側:適正額の範囲で大きな損金になる
    数千万円単位の損金を一度に計上できるため、その期の法人税を大きく圧縮できます。長年の利益の蓄積(内部留保)を、税負担を抑えながら経営者個人に移せます。
  2. 受取側:「退職所得」として特別に優遇される
    退職金には(1)退職所得控除、(2)控除後の金額をさらに半分にする「2分の1課税」、(3)他の所得と合算しない分離課税、という三重の優遇があります。同じ金額を役員報酬で受け取る場合と比べ、手取りが大きく変わります。
  3. 社会保険料がかからない
    退職金は社会保険料(健康保険・厚生年金)の対象外です。役員報酬なら会社と本人あわせて一定の保険料負担が生じることを考えると、この差は無視できません。

会社側のポイント①:損金算入できる「適正額」の考え方

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは損金算入の対象になりますが、法人税法上、「不相当に高額な部分」は損金不算入とされています(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。そこで実務では、税務署・裁判例で広く使われている功績倍率法で適正額を計算するのが一般的です。

功績倍率法の計算式

役員退職金の適正額 = 最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

計算例:最終報酬月額100万円・在任30年・功績倍率3.0の社長の場合
100万円 × 30年 × 3.0 = 9,000万円

功績倍率の実務上の目安

役位 功績倍率の目安
社長(代表取締役) 3.0
専務 2.5
常務 2.2
取締役 1.8
監査役 1.5

この「社長3.0」は昭和55年の東京地裁判決以来、実務で広く参照されてきた水準です。ただし法令で定められた数字ではなく、3.0以下なら絶対に安全、超えたら即アウトというものではありません。同業種・同規模の他社水準との比較で判断されるため、3.0を超える場合はもちろん、退任直前に報酬月額を急に引き上げて退職金を膨らませるようなケースも否認リスクが高くなります。

否認されないための実務ポイント

  • 役員退職金規程を事前に整備し、計算式・功績倍率を明文化しておく
  • 株主総会の決議(議事録)をきちんと残す
  • 最終報酬月額が極端に低い場合(無報酬期間があった等)は、功績倍率法以外の方法(1年当たり平均額法など)の検討も含めて専門家に相談する
  • 功労加算金を上乗せする場合、加算後の総額で「不相当に高額」かどうかが判定される点に注意

会社側のポイント②:損金算入のタイミングには一定の選択余地がある

役員退職金を損金にできる時期は、原則として次のいずれかです(法人税基本通達9-2-28)。

  • 株主総会等で支給額が確定した日の属する事業年度
  • 実際に支払った日の属する事業年度(支払時に損金経理した場合)

つまり「決議した期」と「支払った期」のどちらで損金にするか、一定の選択余地があります。利益が大きく出る期に合わせて損金を計上できるのは、退職金ならではの強みです。なお、資金繰りの都合で分割払いにする場合、支給期間が長期にわたると、退職一時金ではなく退職年金的な支給とみられる可能性があります。分割支給を予定する場合は、支給時期・支給方法・議事録の記載を事前に整理しておくことが重要です。

受取側のポイント:退職所得の税金はこんなに軽い

退職所得控除の計算

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

税額計算のしくみ

退職所得 =(退職金 − 退職所得控除)× 1/2
この退職所得に、分離課税で所得税(累進税率)・住民税10%がかかります。

計算例:退職金9,000万円・勤続30年の場合

  1. 退職所得控除:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
  2. 退職所得:(9,000万円 − 1,500万円)× 1/2 = 3,750万円
  3. 所得税・復興特別所得税:約1,246万円/住民税:375万円
  4. 税額合計:約1,621万円(実効負担率 約18%)

9,000万円を受け取って税負担が2割弱。同じ金額を役員報酬として受け取る場合、所得税・住民税・社会保険料の負担が大きくなりやすいため、退職所得として受け取る場合と手取りに大きな差が出ることがあります。

実際の税額は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無、他の退職金の受給状況、端数処理などにより変わります。特にこの申告書を提出していない場合、退職手当等の支給額に一律20.42%を乗じた源泉徴収となり、後で確定申告による精算が必要になります。上記はあくまで概算です。

注意:役員は「勤続5年以下」だと2分の1課税が使えない

役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)は、2分の1課税が適用されません。短期間だけ配偶者を役員にして退職金を出す、といった手法は封じられているので注意しましょう(役員以外の従業員でも、勤続5年以下の場合は控除後300万円超の部分について2分の1課税が使えません)。

最大の落とし穴:「退職の実態」がないと全額否認も

節税目的で形だけ退職させても、実質的に退職したと同様の事情がなければ退職金とは認められません。特に多いのが、社長が会長に退くなど分掌変更のケースです。国税庁の通達(法人税基本通達9-2-32)では、実質的に退職したと同様の事情があるかどうかを判断する例として、次のようなケースが挙げられています。

  • 常勤役員が非常勤役員になった(代表権を持つ場合等を除く)
  • 取締役が監査役になった(実質的に経営の主要な地位を占める場合等を除く)
  • 分掌変更後の給与がおおむね50%以上減少した

ただし、これらは形式基準ではありません。給与を半分にしても、引き続き銀行交渉や人事・経営の意思決定を握っていれば「退職していない」と判断され、退職金全額が役員賞与(損金不算入)とされるリスクがあります。分掌変更退職金は税務調査の重点項目なので、実態づくりと証拠(議事録・職務内容の記録)の両方が必要です。

役員退職金を支給する前に準備しておく書類

役員退職金は、金額の妥当性だけでなく、支給手続きの証拠も重要です。「いくらまで支給できるか」だけでなく「何を残しておくか」を意識しておくと、税務調査でも説明がしやすくなります。少なくとも、次のような資料を整理しておく必要があります。

  • 役員退職金規程(計算式・功績倍率を明文化したもの)
  • 株主総会議事録(支給額・支給時期を決議したもの)
  • 取締役会議事録(具体的な支給方法などを決めたもの)
  • 退任登記や代表権変更の記録(分掌変更の場合)
  • 分掌変更後の職務内容が分かる資料(組織図・業務分掌など)
  • 報酬減額の記録(変更後の役員報酬額が分かるもの)

【2026年1月施行】iDeCo・企業型DCとの「10年ルール」に注意

令和7年度税制改正により、2026年1月1日以後にDC一時金(iDeCo・企業型確定拠出年金の一時金)を受け取り、その後に会社の退職金などを受け取る場合、退職所得控除の調整対象期間が「前年以前4年以内」から「前年以前9年以内」に拡大されています。実務では「5年ルールから10年ルール」と呼ばれる部分です。

  • 改正前:DC一時金を先に受け取り、5年空けて会社の退職金を受け取れば、退職所得控除をそれぞれ満額使えた
  • 改正後:この調整期間が「前年以前9年以内」に拡大。10年空けないと、後から受け取る退職金の退職所得控除が減額される

たとえば60歳でiDeCoを一時金で受け取り、65歳で役員退職金を受け取るプランは、旧ルールなら控除を二重に使えましたが、新ルールでは調整対象です。iDeCoに加入している経営者は、退任時期と一時金の受け取り順序・タイミングの再設計が必須になりました。

退職金の原資はどう準備する?

数千万円の退職金を一括で支払うには、計画的な原資づくりが欠かせません。代表的な準備手段は次のとおりです。

  • 経営セーフティ共済(倒産防止共済):掛金が損金になり、40か月以上で解約手当金100%(詳細は別記事参照)
  • 法人契約の生命保険:解約返戻金を退職金原資に充てる設計が一般的
  • 経営セーフティ共済+定期積金などの組み合わせ:解約益(雑収入)を退職金の損金とぶつけると、課税を相殺できる

「解約益が出る期に退職金を支給して相殺する」という出口設計まで含めて考えるのがポイントです。

死亡退職金・弔慰金の税務上の取扱い

在任中に亡くなった場合の死亡退職金は、受け取る遺族側で500万円 × 法定相続人の数まで相続税が非課税です。さらに別枠で弔慰金(業務上の死亡なら普通給与の3年分、業務外なら半年分が目安)も非課税で支給できます。会社側では適正額の範囲で損金になる点は生前退職金と同じです。

まとめ

  • 役員退職金は「会社は適正額の範囲で大きな損金・個人は軽い税負担・社会保険料ゼロ」という三拍子そろった制度
  • 適正額の目安は最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率(社長3.0程度)
  • 受取側は退職所得控除+2分の1課税+分離課税で、実効負担が2割前後に収まることも
  • 「退職の実態」がない支給や、退任直前の報酬引き上げは否認リスク大
  • 金額の妥当性だけでなく、規程・議事録など支給手続きの証拠を残すことが重要
  • 2026年1月からの10年ルールで、DC一時金と退職金の受け取り順序の常識が変わった

金額が大きいぶん、失敗したときのダメージも大きいのが役員退職金です。支給の数年前から、規程の整備・原資の準備・受け取りタイミングの設計をセットで進めましょう。

根拠・参考(一次情報)

監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.09 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。税額計算例は概算であり、実際の税額は「退職所得の受給に関する申告書」の提出有無等により変動します。個別の判断は税理士にご相談ください。
タイトルとURLをコピーしました