出張旅費・日当の経費処理|旅費規程で税負担を抑える実務ガイド
出張のたびに「交通費や宿泊費はもちろん経費になるのか?」「日当って何?税金はかかるの?」と疑問を持つ経営者・経理担当者は少なくありません。
実は、出張旅費・日当の取り扱いは、会社側(損金・消費税)と、受け取る役員・従業員側(所得税)の二層で考える必要があります。適切に整備すれば、日当は会社の経費になりつつ、受け取る側では通常必要と認められる範囲で所得税が非課税になるという、税務上のメリットが生まれます。
この記事では、中小企業の実務に即した観点から、出張旅費の区分・経費処理・旅費規程の整備方法まで、国税庁の一次情報に基づいて解説します。
出張旅費とは?交通費・宿泊費・日当の区分
出張旅費とは、役員や従業員が会社の業務のために勤務地を離れて旅行する際に、会社が支給するお金です。大きく以下の3種類に分けられます。
| 区分 | 内容 | 支払先 |
|---|---|---|
| 交通費 | 電車・新幹線・飛行機・タクシーなど | 交通機関(領収書あり) |
| 宿泊費 | ホテル・旅館への宿泊代 | 宿泊施設(領収書あり) |
| 日当 | 食事・雑費など出張中の諸費用の補填として支給する手当 | 役員・従業員(領収書なし) |
ポイント:日当の特徴。交通費・宿泊費が「実費精算」であるのに対し、日当は定額を概算で支給するものです。利用先に直接支払うわけではないため、日当そのものについては適格請求書(インボイス)は発行されません。この点が、後述する消費税の処理にも関わってきます。
会社側の扱い:旅費は損金、国内出張は課税仕入れ
法人税(損金算入)
会社が役員・従業員に支払う出張旅費(交通費・宿泊費・日当)は、業務に関連する支出であれば、原則として法人税法上の損金に算入できます。損金算入の一般的な根拠は、法人税法第22条第3項です。ただし、損金として認められるのは「通常必要と認められる範囲」の金額で、過大な日当は損金算入が否認されたり、役員に対する部分が役員給与とみなされたりするリスクがあります。
消費税(課税仕入れ)
国税庁タックスアンサー No.6459(消費税、令和7年4月1日現在)には、次のとおり定められています。
国内の出張または転勤のために、役員または使用人に対して支給した出張旅費、宿泊費、日当については、支給した金額のうちその旅行について通常必要であると認められる部分の金額は、課税仕入れになります。
つまり、国内出張の旅費・宿泊費・日当は、通常必要と認められる範囲で消費税の課税仕入れとして扱われ、仕入税額控除が可能です。注意:海外出張は原則として課税仕入れになりません(No.6459)。
インボイス制度との関係:出張旅費等特例(帳簿のみの保存)
令和5年10月以降のインボイス制度のもとでも、出張旅費・宿泊費・日当については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる特例があります(消法30⑦、消令49①一ニ、消規15の4二、消基通11-6-4)。国税庁Q&A問107によれば、「通常必要であると認められる部分の金額」が対象で、この判定は所得税基本通達9-3に基づきます。すなわち、所得税が非課税となる範囲内で、帳簿のみの保存による仕入税額控除が認められる、という関係です。超える部分は給与として扱われ、仕入税額控除の対象外です。
仕訳例(国内・海外で消費税区分を分ける)
日当を現金で支給したときの基本的な仕訳は次のとおりです。国内出張と海外出張で消費税区分が変わる点がポイントです。
国内出張の日当10,000円を現金で支給した場合
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 旅費交通費 10,000円(課税仕入れ) | 現金 10,000円 |
海外出張の日当10,000円を現金で支給した場合
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 旅費交通費 10,000円(対象外/不課税) | 現金 10,000円 |
海外出張の旅費・宿泊費・日当は原則として課税仕入れにならないため、国内出張(課税仕入れ)と海外出張(対象外)は消費税区分を分けて記帳します(No.6459)。
派遣社員・出向社員に支給する場合の注意
派遣社員・出向社員の出張旅費等は、誰に支払うかでインボイス制度上の扱いが変わります(国税庁Q&A 問107-3)。
- 出張旅費等を派遣元・出向元企業に支払う場合:人材派遣等の役務提供の対価にあたり、仕入税額控除には派遣元等から受領した適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
- 派遣元・出向元が預かって本人にそのまま支払うことが契約等で明らかな場合:派遣先では出張旅費等特例の対象として差し支えありません(この場合、派遣元では立替払として課税仕入れに該当しません)。
契約内容と精算ルート(誰に支払い、誰が最終的に受け取るか)を確認したうえで処理しましょう。
受け取る側の扱い:日当は「通常必要と認められる範囲」で非課税
役員や従業員が会社から日当を受け取った場合、通常必要と認められる範囲内であれば所得税が非課税になります(所得税法第9条第1項第4号)。国税庁タックスアンサー No.2508でも、手当は原則給与所得としたうえで、その例外として「転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの」は非課税と明記されています。
所得税基本通達9-3の基準
判定基準は所得税基本通達9-3に定められ、次の2点を勘案します。
- 社内バランス基準:その支給額が、役員および使用人のすべてを通じて適正なバランスが保たれている基準で計算されているか
- 同業他社比較:同業種・同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当か
つまり、「日当を支給すれば必ず非課税」ではなく、金額の合理性・社内での公平性があってはじめて非課税として認められます。
非課税にならないおそれがあるケース
- 同業他社の相場と比べて著しく高額な日当
- 役員だけが突出して高い金額(役員と従業員の格差が大きすぎる場合)
- 旅費規程で定めた金額と実態が著しくかけ離れている場合
- 出張の実態がないのに日当を支給している場合
旅費規程を整備するメリットと要件
| メリット | 説明 |
|---|---|
| 税務調査での証拠力 | 「金額の合理性・社内のバランス」を客観的に示しやすくなる |
| 日当の非課税主張の根拠 | 所基通9-3の勘案事項(社内バランス・同業他社相当性)を満たすことを示す材料になる |
| 経理処理の効率化 | 毎回判断せず、規程どおりに処理できる |
| 内部不正の防止 | 不当な精算を防ぐルールになる |
旅費規程に定めるべき事項
- 適用対象:役員・正社員・パート・派遣社員など、誰に適用されるか(社内バランスの観点から、原則として全役員・全従業員を対象とする)
- 出張の種類:国内出張/海外出張、日帰り/宿泊の区分
- 役職・地域による金額設定:役職ごと・地域ごとの交通費・宿泊費・日当の上限または定額
- 精算の手続き:出張報告書の提出、領収書の添付ルール
- 禁止事項:同一費目の二重補填の禁止(宿泊費を実費精算しながら、同じ宿泊費相当を別途定額支給するような重複は不可。「宿泊費=実費」「日当=食事・雑費の補填」など、何を補填するかを明確に区分する)
旅費規程の作成・変更の流れ
- 会社の機関設計に応じて、取締役会・取締役の決定・経営会議などで承認し、決裁記録や議事録を残す(取締役会を設置していない会社や一人会社でも、決定の記録は残しておく)
- 旅費規程を就業規則の一部として定める場合など、就業規則の作成・変更にあたる場合は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では労働基準監督署への届出が必要になることがある(自社の運用に応じて確認する)
- 改定のたびに「改定履歴」を記録し、古い版も保存する
日当の決め方の注意点(過大は否認リスク)
金額水準の考え方
日当の適正な金額は、業種・企業規模・地域・出張の実態によって大きく異なります。国税庁は具体的な金額基準(いくらまでなら非課税、といった一律の水準)を公表していません。金額の妥当性は、所基通9-3の2つの勘案事項——(1)社内で適正なバランスが保たれているか、(2)同業種・同規模の他社の一般的な水準に照らして相当か——で個別に判断します。
過大な日当の否認リスク
- 受け取る側(所得税):給与として源泉徴収の対象となる
- 会社側(消費税):仕入税額控除の対象外となる
- 会社側(法人税):役員に対する部分は、不相当に高額な役員給与として損金算入が否認される可能性がある(法人税法第34条第2項)
実費精算と日当の関係(同一費目の二重補填に注意)
避けるべきなのは、同じ費目を実費精算と定額支給で二重に補填する運用です。たとえば、宿泊費そのものを実費精算しているのに、別途「宿泊費相当額」を定額で支給すれば、二重支給とみられるリスクがあります。
一方で、宿泊費は実費精算し、出張中の食事代・雑費の補填として日当を支給する運用は、旅費規程に基づく合理的な金額であれば、直ちに否認されるものではありません。旅費規程で「宿泊費」と「日当」がそれぞれ何を補填するものかを明確にし、同一費目の重複支給にならないようにしておきましょう。
まとめ:規程整備と証憑保存が税務対策のカギ
会社側(法人税・消費税)
- 国内出張の旅費・宿泊費・日当は、通常必要な範囲で損金算入・課税仕入れ(仕入税額控除)が認められる
- インボイス制度のもとでも、通常必要な範囲内なら帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる(出張旅費等特例)
- 海外出張の旅費・宿泊費・日当は原則として課税仕入れにならない
受け取る側(所得税)
- 通常必要と認められる範囲の旅費・日当は所得税が非課税(所得税法9条1項4号)
- 判定基準は所基通9-3:①社内バランス、②同業他社との相当性
- 範囲を超える部分は給与として課税される
実務上のチェックリスト
- 旅費規程を整備し、全役員・全従業員に適用している
- 日当の金額は、社内バランスと同業他社水準に照らして合理的な水準に設定している
- 同一費目の二重補填(実費精算と日当の重複)になっていない
- 帳簿に「出張旅費」「宿泊費」「日当」等の記載がある(インボイス特例の要件)
- 出張報告書・交通費領収書等の証憑を保存している
- 国内出張と海外出張を分けて処理している
根拠・参考(一次情報)
- 国税庁タックスアンサー No.6459「出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い」(消費税、令和7年4月1日現在)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6459.htm - 国税庁タックスアンサー No.2508「給与所得となるもの」(源泉所得税、令和7年4月1日現在)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm - 国税庁 インボイスQ&A 問107「出張旅費、宿泊費、日当等」(所基通9-3の全文も掲載)問107 PDF/同 問107-3「派遣社員等や内定者等へ支払った出張旅費等の仕入税額控除」問107-3 PDF
- 所得税法第9条第1項第4号/所得税基本通達9-3(e-Gov・国税庁)
- 法人税法第22条第3項・第34条第2項(e-Gov法令検索)
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.02 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

