収用の圧縮記帳とは|計算例と5,000万円控除との違い

減価償却・設備投資
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条文と実務経験にもとづき、最新の税制改正を反映して解説しています

道路の拡張や再開発などで、会社の土地や建物が収用されることがあります。このとき受け取る対価補償金が、収用された資産の帳簿価額を上回れば、その差額(譲渡益)に法人税がかかります。長く持っていた土地ほど簿価が低く、譲渡益は大きくなりがちです。

収用は会社が望んで行うものではないため、税制には負担をやわらげる2つの特例が用意されています。ひとつが代替資産の圧縮記帳(課税の繰延べ)、もうひとつが5,000万円の特別控除です。この記事では、圧縮記帳のしくみと計算例を中心に、2つの特例の使い分けまで解説します。

免責: 本記事は記載時点の法令に基づく一般的な解説です。適用要件や限度額は個別事情・改正で変わります。個別の判断は税理士にご相談ください。

収用等の課税の特例は2つある

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図1:収用等の課税の特例は2つ(代替資産の圧縮記帳と5,000万円特別控除・併用不可)
図1:収用等の課税の特例は2つ(代替資産の圧縮記帳と5,000万円特別控除・併用不可)

法人の資産が収用等された場合、次の2つの特例のいずれかを選べます(国税庁 No.5650)。

  • ① 代替資産の圧縮記帳(課税の繰延べ)(租税特別措置法64条)……対価補償金で代替資産を取得した場合に、譲渡益への課税を将来に繰り延べる。
  • ② 5,000万円の特別控除(租税特別措置法65条の2)……譲渡益と5,000万円のいずれか低い金額を所得から控除する。控除される部分は実質的に非課税となる。

両者は併用できません(国税庁 No.5650・No.3552。同じ収用について、いずれか一方の特例のみ適用できます)。代替資産を取得して事業を続けるなら①の圧縮記帳、代替資産を取得せず譲渡益も5,000万円以下に収まるなら②の特別控除が有利になりやすいなど、状況によって選択します(どちらが有利かは個別事情によります)。この記事では①の圧縮記帳を中心に説明します。

代替資産の圧縮記帳の要件

代替資産の圧縮記帳(措法64)を使うには、主に次の要件を満たす必要があります(No.5650)。

  • 収用等された資産(譲渡資産)が固定資産であること(販売目的の棚卸資産は対象外)。
  • 交付を受けた補償金が対価補償金(および対価補償金として扱う移転補償金等)であること。
  • 代替資産が、譲渡資産と同じ種類・同じ効用の資産、または事業用の減価償却資産・土地等であること。
  • 代替資産が所有権移転外リース取引により取得したものでないこと。
  • 原則として収用等のあった日から2年以内に代替資産を取得すること。
  • 損金経理により帳簿価額を減額する、または積立金として積み立てる経理をし、確定申告書に圧縮額等の損金算入に関する明細(別表13(4))を添付すること。あわせて、収用等があったこと(買取り等の申出があったこと)を証する書類など一定の書類を保存しておくこと。

補償金には、対価補償金のほかに移転補償金・収益補償金などがあり、区分によって扱いが異なります。どの補償金が対価補償金に当たるかは、収用に伴う契約内容の確認が必要です。

なお、代替資産を先に取得しているケースでも、収用等のあった日を含む事業年度開始の日前1年(工場等の建設に通常1年を超える期間を要するなどのやむを得ない事情があるときは3年)以内に取得したものであれば、圧縮記帳の対象になります(No.5650 QA)。ただし、この1年(または3年)さかのぼった期間の開始日が、その収用等により資産を譲渡することとなることが明らかとなった日より前である場合は、その明らかとなった日以後に取得した資産に限られます(措法64③)。つまり、収用の見込みが立つ前に通常の設備投資として取得しておいた資産までが対象になるわけではありません。

逆に、収用等のあった事業年度中には代替資産を取得できず、後の事業年度(原則として収用等のあった日から2年以内)に取得する見込みのときは、「あとで買えばよい」だけで済むわけではありません。取得までの間は、代替資産の取得に充てようとする補償金の額(補償金の範囲内)に差益割合を乗じた金額以下特別勘定として経理して損金に算入し、実際に代替資産を取得した事業年度でこれを取り崩して圧縮記帳を行う処理が必要になります(措法64の2)。特別勘定に繰り入れられるのは譲渡益の全額ではなく、あくまで取得予定額に見合う範囲にとどまる点に注意します。決算をまたいで代替資産を取得する場合は、この特別勘定の経理を忘れないようにします。

圧縮限度額の計算式

差益割合=( 対価補償金等の額 − 譲渡資産の帳簿価額 − 譲渡経費 )÷( 対価補償金等の額 − 譲渡経費 )
圧縮限度額= 圧縮基礎取得価額 × 差益割合

ここで「圧縮基礎取得価額」は、代替資産の取得価額と「対価補償金等の額 − 譲渡経費」のいずれか少ない金額です。補償金の範囲内で代替資産を取得したぶんだけ、譲渡益を繰り延べられるという考え方です。

具体的な計算例

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図2:圧縮限度額の計算例(差益割合0.8 → 圧縮限度額4,000万円で譲渡益を全額繰延べ)
図2:圧縮限度額の計算例(差益割合0.8 → 圧縮限度額4,000万円で譲渡益を全額繰延べ)
前提(作例):収用された土地の帳簿価額1,000万円/対価補償金5,000万円/譲渡経費0円/代替土地の取得価額5,000万円

① 差益割合

(5,000万円 − 1,000万円 − 0円)÷(5,000万円 − 0円)= 4,000万円 ÷ 5,000万円 = 0.8

② 圧縮基礎取得価額

代替資産5,000万円と「対価補償金5,000万円 − 経費0円 = 5,000万円」のいずれか少ない金額=5,000万円

③ 圧縮限度額

5,000万円 × 0.8 = 4,000万円

このケースでは譲渡益(5,000万円 − 1,000万円)が4,000万円で、その全額の4,000万円を圧縮(繰延べ)でき、代替土地の帳簿価額を「5,000万円 − 4,000万円 = 1,000万円」に減額します。収用による当期の課税は生じません。代替資産が土地であれば減価償却はありませんが、圧縮で帳簿価額を下げた分だけ、将来その土地を売却したときの譲渡益が大きく(譲渡損が小さく)なる形で、繰り延べた課税が実現します。つまり課税は免除ではなく繰り延べられているわけです。

なお、代替資産の取得価額が対価補償金より少ない場合は、圧縮基礎取得価額が小さくなり、繰り延べられる金額もそのぶん小さくなります。

5,000万円特別控除との使い分け

代替資産を取得しない、あるいは取得しても譲渡益が5,000万円以下に収まるようなケースでは、5,000万円特別控除(措法65の2)のほうが有利なことがあります。控除は課税を先送りするのではなく、譲渡益そのものを最大5,000万円までなくす(控除部分を非課税にする)効果があるためです。

ただし特別控除には、圧縮記帳とは別の要件・適用除外があります(措法65の2)。主なものは次のとおりです。

  • 最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに譲渡すること(仲裁の申請・補償金の支払請求・農地法の許可等がある場合は例外あり)。
  • 一つの収用事業に係る資産の譲渡が2以上の年にわたる場合は、原則として最初の年に譲渡した資産についてのみ適用でき、それ以外の年に譲渡した資産は対象外。
  • 最初に買取り等の申出を受けた者以外の法人が譲渡した場合も、原則として対象外(適格合併・適格分割による承継など一定の場合を除く)。

また、同じ収用について圧縮記帳と特別控除の両方は使えません。どちらを使うかは1件ごとではなく、同一の年(事業年度のうち同一年に属する期間)に収用等で譲渡した資産をひとまとまりとして判定します(そのいずれについても圧縮記帳等を受けないときに限り、特別控除を選べます)。複数の資産や複数年にわたる譲渡がある場合は選択関係の判定が細かくなるため、個別に確認してください。代替資産を取得して事業を継続するのか、補償金を手元に残すのかといった方針と、譲渡益の大きさを踏まえて選択します。

なお、この5,000万円の枠は譲渡1件ごとではなく、同一の暦年を単位とした限度です。同一の法人が同じ年に複数の収用等について特別控除を受ける場合の年間5,000万円の限度は、措法65条の2自体の控除額の計算で調整されます。さらに、その法人との間に「法人による完全支配関係」があるグループ法人(個人が支配する兄弟会社などは含みません)が、同じ年にこの5,000万円特別控除や、これと並ぶ他の特別控除(農地保有の合理化等の措法65条の3以下)の適用を受ける場合は、グループ全体で合計した控除額のうち5,000万円を超える部分は損金に算入できません(措法65条の6)。複数の譲渡やグループでの適用は判定が細かくなるため、個別に確認してください。

まとめ

  • 収用で受け取る対価補償金が簿価を上回ると譲渡益に課税される。特例は「代替資産の圧縮記帳(課税繰延・措法64)」と「5,000万円特別控除(措法65の2)」の2つで、併用不可。
  • 圧縮記帳の要件は、固定資産の収用・対価補償金・同種等の代替資産(所有権移転外リースを除く)を原則2年以内に取得・経理・別表13(4)の添付・証明書類の保存など。
  • 圧縮限度額=圧縮基礎取得価額 × 差益割合。差益割合=(対価補償金 − 譲渡資産簿価 − 譲渡経費) ÷ (対価補償金 − 譲渡経費)。
  • 計算例(土地簿価1,000万・対価補償金5,000万・代替土地5,000万)では、差益割合0.8、圧縮限度額4,000万円(譲渡益の全額を繰延べ)。
  • 圧縮記帳は「繰延べ」、5,000万円控除は実質「非課税」。譲渡益の大きさと代替資産取得の有無で使い分ける。

根拠・参考(一次情報)

  • 国税庁タックスアンサー No.5650「収用等があったときの課税の特例」(令和7年4月1日現在法令等。要件・圧縮限度額の算式・差益割合・5,000万円特別控除との選択・別表13(4)。根拠法令:措法64・64の2・65の2、措令39、措規22の2)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5650.htm
  • 国税庁 No.5650 QA「代替資産を先行取得した場合」
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5650_qa.htm
  • 国税庁「租税特別措置法関係通達(法人税編)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》関係」(法人の5,000万円特別控除の適用関係・複数譲渡の取扱いなど)
    https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/sochiho/750214/10/10_65_2.htm
  • 国税庁タックスアンサー No.3552「収用等により土地建物を売ったときの特例」(所得税版。2つの特例の併用不可・5,000万円特別控除の「買取り等の申出から6か月」要件の趣旨確認に参考として参照)
    https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3552.htm
  • 根拠法令:租税特別措置法64条(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)・64条の2(収用等に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例)・65条の2(収用換地等の場合の5,000万円特別控除)・65条の6(同一年に複数の特別控除を受ける場合等の特別控除額の特例=完全支配関係法人を含めた合計5,000万円限度)ほか(e-Gov法令検索で確認)
監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.20 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。
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