火災や事故で工場・倉庫や機械が失われたとき、加入していた保険から保険金が支払われます。その保険金で新しい資産を建て直したり買い替えたりしますが、ここで税務上の問題が生じます。受け取った保険金が、失われた資産の帳簿価額を上回ると、その差額(保険差益)に法人税がかかるのです。
被災して立て直そうとしているのに、保険金に課税されて手元資金が減っては再建もままなりません。そこで、代替資産を取得した場合に保険差益への課税を将来に繰り延べるのが保険金等の圧縮記帳です。この記事では、要件と圧縮限度額を、国税庁の計算例を使って解説します。
免責: 本記事は記載時点の法令・通達に基づく一般的な解説です。適用要件や限度額は個別事情・改正で変わります。個別の判断は税理士にご相談ください。
保険金で建て直すと「保険差益」に課税される
保険金は、失われた資産の帳簿価額を超える部分が「もうけ(保険差益)」として益金になります。たとえば帳簿価額1,000万円の建物が焼失し、保険金2,000万円を受け取れば、差額のおよそ1,000万円が保険差益として課税対象になります。
代替資産の取得には何年もかけて償却する一方、保険差益は受け取った年に一度に課税されるため、取得初年度に税負担が集中します。これを調整するのが保険金等の圧縮記帳です。
保険金等の圧縮記帳の要件
保険金等の圧縮記帳を使うには、主に次の要件を満たす必要があります(国税庁 No.5608、法人税法47条)。
- 固定資産の滅失・損壊があり、その日から3年以内に支払の確定した保険金・共済金・損害賠償金(保険金等)を受け取ったこと。
- その保険金等で、滅失した固定資産に代替する同一種類の固定資産(代替資産)を取得する、または損壊した固定資産・代替資産となるべき資産を改良したこと。
- 帳簿価額を圧縮限度額の範囲内で損金経理により減額する、または積立金として積み立てる経理をしていること。
- 確定申告書に圧縮額の損金算入に関する明細書(別表13(2))を添付すること。
保険金を受け取った事業年度中に代替資産を取得できない場合でも、翌期首から原則2年以内に取得(または改良)する見込みがあれば、特別勘定を設けて損金算入できます(法人税法48条)。
注記:すべての保険金が対象になるわけではありません。 保険金等の圧縮記帳の対象になるのは、所有する固定資産の滅失・損壊に基因して受ける保険金等に限られます。たとえば、棚卸資産の滅失等により受ける保険金や、休業損失・費用補填を目的として支払われる保険金等は、圧縮記帳の対象外です(法人税基本通達10-5-1)。
圧縮限度額の計算式
圧縮限度額は、次の順序で計算します(No.5608)。
① 保険差益金を求める
保険差益金 = 保険金等の額 − 滅失等により支出した経費の額 − 被害直前の帳簿価額(滅失部分)
② 圧縮限度額を求める
圧縮限度額 = 保険差益金 × ( 代替資産の取得等に充てた保険金の額 ÷ ( 保険金等の額 − 滅失等により支出した経費の額 ) )
かっこの中の割合を「差益割合」と呼びます。代替資産の取得に充てた保険金が多いほど、圧縮できる金額(=繰り延べられる金額)が大きくなります。なお、分子の「代替資産の取得等に充てた保険金の額」は、分母の「保険金等の額 − 滅失経費」を上限とします(代替資産の取得価額がこれを上回っても、分子はこの金額で頭打ちになります)。
具体的な計算例
国税庁の計算例(No.5608)で、実際に数字を当てはめてみます。
- 被害(滅失)直前の帳簿価額:1,000万円
- 滅失により支出した経費(取り壊し費用など):50万円
- 保険金等の額:2,000万円
- 保険金で取得した代替資産の取得価額:3,000万円
① 保険差益金
2,000万円 − 50万円 − 1,000万円 = 950万円
② 圧縮限度額
「保険金等の額 − 滅失経費」は「2,000万円 − 50万円 = 1,950万円」。代替資産の取得価額3,000万円はこれを上回るため、取得に充てた保険金は1,950万円(保険金として使えるのは1,950万円まで)となります。
圧縮限度額 = 950万円 × ( 1,950万円 ÷ 1,950万円 ) = 950万円
このケースでは、保険差益金950万円の全額(950万円)を圧縮でき、代替資産の帳簿価額を「3,000万円 − 950万円 = 2,050万円」に減額します。保険差益への当期課税は生じません。そのぶん代替資産の減価償却費は圧縮後の2,050万円をもとに計算されるため、将来の償却費が減り、課税は将来に繰り延べられます。
なお、代替資産の取得価額が「保険金等 − 滅失経費」より小さい場合は、差益割合が1未満になり、圧縮できる金額もそのぶん小さくなります。
「滅失等により支出した経費」とは
計算式に出てくる「滅失等により支出した経費(滅失経費)」は、保険差益金と差益割合の両方に影響するため、どの費用が含まれるかを正しく区分する必要があります。
含まれるのは、滅失・損壊した固定資産に直接関連する費用です。たとえば、取壊費・焼跡の整理費・消防費などがこれにあたります。
一方、固定資産の滅失等に直接関連しない費用は含まれません。たとえば、類焼者への賠償金、けが人への見舞金、被災者への弔慰金などは、滅失経費には含めません(法人税基本通達10-5-5)。
まとめ
- 保険金が失われた資産の帳簿価額を上回ると、その保険差益に課税される。圧縮記帳はその課税を将来に繰り延べる制度(法人税法47条、No.5608)。
- 要件は、滅失・損壊から3年以内の保険金等・同一種類の代替資産の取得(または改良)・経理・別表13(2)の添付など。棚卸資産の保険金や休業損失・費用補填の保険金等は対象外(法基通10-5-1)。
- 「滅失経費」に含まれるのは取壊費・焼跡整理費・消防費など。賠償金・見舞金・弔慰金は含まれない(法基通10-5-5)。
- 圧縮限度額=保険差益金 ×(代替資産の取得に充てた保険金 ÷(保険金等 − 滅失経費))。分子は分母を上限とする。
- 計算例(帳簿1,000万・経費50万・保険金2,000万・代替資産3,000万)では、保険差益金950万円、圧縮限度額950万円(全額圧縮)。
- 圧縮記帳は「免除」ではなく「繰延べ」。代替資産の償却費が減る。代替資産が取得できない期は特別勘定(翌期首から原則2年以内)。
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根拠・参考(一次情報)
- 国税庁タックスアンサー No.5608「保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳」(令和7年4月1日現在法令等。要件・圧縮限度額の計算式・計算例・特別勘定・別表13(2)。根拠法令:法法47・48・49、法令84・84の2・85・86・87・89)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5608.htm - 根拠法令:法人税法47条(保険金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入)・48条(特別勘定)・49条、法人税法施行令85条ほか(e-Gov法令検索で確認)
監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.06 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者
本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。

