「社員へのランチ補助は経費になる?」「忘年会や社員旅行の会社負担は大丈夫?」──従業員のための支出は、福利厚生費として処理できるか、給与として処理すべきかの判断が必要で、税務上は「どこまでが福利厚生費で、どこからが従業員の給与になるのか」という境界線の問題がつきまといます。
給与と判定されると、会社の損金にはなるものの、従業員側で所得税が課税され、会社には源泉徴収の義務が生じます。役員への支出なら、役員給与の損金規制に触れて損金不算入になるリスクもあります。
しかも2026年(令和8年)4月からは、食事補助の非課税枠が月3,500円から7,500円へと大幅に引き上げられるなど、基準は動いています。この記事では、境界線を分ける基本の考え方と、項目別の非課税ラインを国税庁タックスアンサーにもとづいて解説します。
免責: 本記事は記載時点の法令に基づく一般的な解説です。給与課税の判定は支出の実態により総合的に判断されるため、個別の判断は税理士にご相談ください。
基本の考え方──従業員が受ける「経済的利益」は原則給与
所得税では、金銭だけでなく、物やサービスなどの経済的利益(現物給与)も収入金額に含まれるのが原則です(所得税法36条)。会社が従業員のために何かを負担すれば、理屈のうえでは従業員への給与になり得ます。
ただし、少額の現物給与まですべて課税するのは実情に合わないため、一定の要件を満たすものは課税しなくてよいという取扱いが通達等で定められています。ここで、「福利厚生費として損金にできるか」という法人側の判定と、「従業員等の給与として所得税を課税するか」という受給者側の判定は、関連しますが同じものではありません(会計上は福利厚生費でも給与課税される場合や、給与課税されなくても旅費交通費・研修費など別科目になる場合があります)。本記事では、主に給与課税されない要件を中心に整理します。
ここで整理しておきたいのは、論点が2つある点です。
- 法人側:支出が損金になるか(福利厚生費なら損金。給与とされても従業員分は原則損金だが、役員分は役員給与の規制対象)
- 従業員側:所得税が課税されるか(課税なら会社に源泉徴収義務)
「経費で落ちるか」だけでなく、「従業員・役員に所得税がかかるか」をセットで確認するのがポイントです。
境界線を分ける3つの視点
個別の基準を見る前に、判定でよく使われる代表的な確認ポイントを押さえておきましょう。ただし、これらはすべての項目に共通する絶対の要件ではなく、項目ごとに例外や別の基準があります。
- 対象者の限定に合理性があるか……合理的・客観的な理由なく、特定の役員や従業員だけを対象とする支出は、福利厚生ではなくその人への給与(役員なら役員給与)と判定されやすくなります。ただし、勤務形態・勤務地・年齢・勤続年数などに基づく合理的な限定は認められます(深夜勤務者の夜食、永年勤続表彰などが典型)。
- 金額が社会通念上相当か……世間一般の水準から見て高額すぎる支出は、非課税の趣旨(少額の現物給与は強いて課税しない)を外れます。
- 現金や換金性の高いものでないか……現金支給や商品券は、原則としてその全額(券面額)が給与として課税されます。ただし、深夜勤務者の夜食代(後述の1食650円以下)や社会通念上相当な慶弔見舞金など、現金でも課税しない例外が法令・通達で定められています。
これらを踏まえたうえで、項目ごとの具体的な非課税ラインを確認していきます。
食事補助──月7,500円以下+本人が半額以上負担(令和8年4月から引き上げ)
役員や従業員に支給する食事は、次の2つの要件を両方満たせば給与として課税されません(国税庁No.2594、令和8年4月1日現在)。
- 役員・従業員が食事の価額の半分以上を負担していること
- 会社の負担額(食事の価額-本人負担額)が1か月当たり7,500円(税抜)以下であること
要件を満たさない場合は、会社負担額の全額(食事の価額-本人負担額)が給与として課税されます。たとえば月の食事価額13,000円・本人負担6,000円なら、半額以上負担の要件を満たさないため、差額7,000円が給与になります(No.2594の具体例)。
注意点は次のとおりです。
- 現金での食事代補助は原則全額給与。例外は、深夜勤務者に夜食を現物支給できない場合の1食650円(税抜)以下の金銭支給のみ(この650円も改正前の300円から引き上げ)。
- 残業・宿日直のときに支給する食事は、無料で支給しても課税されません。
社員旅行・忘年会などのレクリエーション
社員旅行は「4泊5日以内・参加50%以上」が目安
従業員レクリエーション旅行は、旅行の企画・目的・規模・行程・参加割合・会社負担額などを総合的に勘案して判定されますが、少額不追求の趣旨を逸脱しないもので、次の2つをいずれも満たすときは、原則として参加者の給与としなくてよいとされています(国税庁No.2603、令和7年4月1日現在)。
- 旅行期間が4泊5日以内(海外旅行は外国での滞在日数が4泊5日以内)
- 参加人数が全体の50%以上(工場・支店ごとに行う場合は職場ごとに50%以上)
国税庁の事例では、3泊4日・会社負担7万円・参加100%、4泊5日・会社負担10万円・参加100%は課税しなくてよく、5泊6日のものは社会通念上一般に行われている旅行と認められず課税、とされています。
なお、この50%以上はあくまで原則非課税となる目安です。50%を下回っても、旅行の内容などを総合的に勘案して非課税と判断される場合があります(国税庁の質疑応答事例には、参加割合が約38%でも非課税とされた例があります)。
次の場合は要注意です。
- 自己都合で不参加の人に、参加に代えて金銭を支給すると、その金銭相当額が参加者・不参加者の全員の給与として課税されます(旅行と金銭を選択できる場合も同様)。会社の業務の都合で参加できなかった人はこの全員課税の対象からは除かれますが、その人へ支給した金銭自体はその人の給与になります。
- 役員だけで行う旅行、取引先の接待目的の旅行、実質的な私的旅行は、レクリエーション旅行に該当せず、給与や交際費として処理が必要です。
忘年会・新年会など
社内行事の費用は、全従業員(部署単位で開催する場合はその部署の従業員)に広く参加機会が設けられ、通常の飲食の範囲であれば、給与課税せず福利厚生費として処理できるのが一般的です(部署ごとに開催する場合は、その部署内で公平に参加機会を設けます)。一方で、合理的な理由なく特定のメンバーだけを対象とする飲み会は給与や交際費に近づき、二次会まで会社負担にするようなケースでは、参加範囲や金額の相当性を踏まえた慎重な判断が必要になります。個別の取扱いは税理士に相談してください。
慶弔見舞金・永年勤続表彰・創業記念品
慶弔見舞金は「社会通念上相当」なら非課税
結婚祝金・出産祝金や、香典・災害見舞金などは、その人の地位などに照らして社会通念上相当と認められる金額であれば、給与として課税しなくてよいとされています(所得税基本通達28-5・9-23)。
金額の明確な上限はありませんが、慶弔規程を作り、支給事由・役職・本人との関係・災害の程度などに応じた客観的で一貫した基準を定めておくことが、恣意的な支給でないことを示す実務上のポイントです(役職等に応じて金額に合理的な差を設けること自体は問題ありません)。
永年勤続表彰(国税庁No.2591)
永年勤続者への記念品や旅行・観劇への招待費用は、次の要件をすべて満たせば課税されません。
- 勤続年数や地位に照らして社会一般的にみて相当な金額以内
- 勤続おおむね10年以上の人が対象
- 2回以上表彰する場合は、前回からおおむね5年以上の間隔
創業記念品(国税庁No.2591)
- 社会一般的にみて記念品としてふさわしいもの
- 処分見込価額による評価額が1万円(税抜)以下
- 一定期間ごとの行事での支給はおおむね5年以上の間隔
いずれも、記念品や招待に代えて現金・商品券を支給するとその全額(商品券は券面額)が給与課税されます。本人が自由に品物を選べる場合も同様です。
給与課税になるとどうなるか
非課税の要件を外れると、次の影響があります。
- 源泉徴収もれ……給与とされた経済的利益には源泉所得税がかかります。税務調査で指摘されると、不納付加算税や延滞税の負担が生じ得ます。
- 役員への支出は損金不算入のリスク……役員が受ける経済的利益は役員給与として扱われ、定期同額給与等に該当しない場合は法人側でも損金不算入となり得ます(法人税法34条)。従業員分は原則として法人の損金になりますが、本人への給与課税と源泉徴収漏れの是正(不納付加算税・延滞税、本人からの税額回収など)が必要です。役員分は、これに加えて法人側で損金不算入となる可能性があります。
まとめ──項目別早見表
| 項目 | 非課税のライン(参照年月つき) |
|---|---|
| 食事補助 | 本人が半額以上負担+会社負担月7,500円(税抜)以下(令和8年4月1日以後支給分。改正前は3,500円) |
| 残業・宿日直の食事 | 無料支給でも非課税 |
| 深夜勤務者の夜食代(金銭) | 1食650円(税抜)以下(改正前は300円) |
| 社員旅行 | 4泊5日以内+参加50%以上(目安)+総合勘案(役員だけの旅行は不可・自己都合の不参加者への金銭は全員給与) |
| 慶弔見舞金 | 社会通念上相当な金額(慶弔規程の整備を推奨) |
| 永年勤続表彰 | 勤続おおむね10年以上・前回からおおむね5年以上・相当な金額(現金・商品券は課税) |
| 創業記念品 | 1万円(税抜)以下・おおむね5年以上の間隔(現金・商品券は課税) |
判定でよく使う視点は、対象者の公平さ・社会通念上の相当性・現金換金性の有無の3点ですが、これらは絶対の要件ではなく、項目ごとに例外や別の基準があります。基準ぎりぎりの支出や役員向けの支出は判定が分かれやすいので、制度設計の段階で税理士に相談してください。
根拠・参考(一次情報)
- 国税庁タックスアンサー No.2594「食事を支給したとき」(令和8年4月1日現在):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm
- 国税庁「食事の現物支給に係る所得税の非課税限度額の引上げについて」(令和8年3月31日改正・令和8年4月1日以後支給分から適用):https://www.nta.go.jp/users/gensen/2026shokuji/index.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2603「従業員レクリエーション旅行や研修旅行」(令和7年4月1日現在):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2603.htm
- 国税庁タックスアンサー No.2591「創業記念品や永年勤続表彰記念品の支給をしたとき」(令和7年4月1日現在):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2591.htm
- e-Gov法令検索 所得税法36条:https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000033 / 法人税法34条:https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034
監修:税夢(税理士・税理士法人勤務)/ 運営者・監修者情報
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.25 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者
本記事は一般的な解説で、記載時点の制度・税率に基づきます。監修者個人の見解であり、所属する税理士法人の公式見解ではありません。個別の判断は税理士にご相談ください。


