「今期は赤字になったけど、前期はしっかり法人税を払っていた。その税金、取り戻せないだろうか?」そんな疑問にこたえる制度が、欠損金の繰戻しによる還付(以下「繰戻し還付」)です。前期に納付した法人税の一部を、当期の赤字(欠損金)をぶつけることで還付してもらえる場合があります。ただし、この制度を使えるのは原則として中小企業者等に限られており、要件も定められています。「必ず還付される」わけではなく、適用は任意で、請求書の提出が必要です。この記事では、繰戻し還付の仕組み・要件・計算方法を、もう一方の選択肢である欠損金の繰越控除とはとの比較も交えながら、中小企業の経営者・経理担当者向けにわかりやすく解説します。
※本記事は令和8年度税制改正(令和8年4月1日施行)を反映しています。個別の税率等は国税庁タックスアンサー(令和7年4月1日現在法令等)に基づきます。
1. 繰戻し還付とは何か――仕組みを図で理解する
基本の考え方
法人税では、黒字の年度(所得が生じた年度)に納税し、赤字の年度(欠損金が生じた年度)は税金がかかりません。しかし赤字の年度が黒字の直後に来た場合、前年に払った税金の一部を「後から取り戻す」イメージで請求できる仕組みがあります。それが繰戻し還付です。
具体的には、青色申告書である確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合(欠損事業年度)、その欠損金額を、欠損事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度(還付所得事業年度)に繰り戻して、法人税額の還付を請求できます。
課税所得:1,000万円 → 法人税を納付済み(本記事の試算では約166万円)
↓ 翌事業年度に欠損金が生じる
【当事業年度(欠損事業年度)】
欠損金:800万円(赤字)
↓ 欠損金を前事業年度の所得に「繰り戻す」
【結果】
前期の法人税額 ×(当期欠損金 ÷ 前期所得)→ 一部が還付
ポイントは、過去に払った税金の一部が今期の赤字によって戻ってくるという点です。繰越控除が「将来の黒字と相殺する」制度なのに対し、繰戻し還付は「過去の税金を今すぐ取り戻す」制度です。
(国税庁タックスアンサー No.5763「欠損金の繰戻しによる還付」令和7年4月1日現在)
2. 適用できる会社の要件
2-1. 誰が使えるか(対象法人)
繰戻し還付は、原則として中小企業者等のみが対象です(法人税法第80条、租税特別措置法第66条の12)。
中小企業者等以外の法人(大企業など)については、この繰戻し還付を適用しない措置(不適用措置)が設けられています。この不適用措置は令和8年度税制改正により適用期限が2年延長され、原則として平成4年4月1日から令和10年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額が対象です(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。ただし、中小企業者等以外の法人であっても、次の欠損金額についてはこの制度を適用できます(No.5763)。
- 清算中に終了する各事業年度の欠損金額
- 解散等の事実が生じた場合の欠損金額
- 災害損失欠損金額
- 銀行等保有株式取得機構の欠損金額
中小企業者等(法人税法第80条・No.5763)の主な範囲(令和7年4月1日現在):
- 普通法人(投資法人・特定目的会社・受託法人を除く)のうち、その事業年度終了の時において資本金の額または出資金の額が1億円以下であるもの、または資本もしくは出資を有しないもの。ただし、次の法人は除かれます。
- 資本金5億円以上の大法人等による完全支配関係がある普通法人(大法人の100%子会社等)
- 複数の大法人に発行済株式等の全部を保有される普通法人
- 大通算法人
- 相互会社および外国相互会社
- 公益法人等または協同組合等
- 法人税法以外の法律により公益法人等とみなされる一定の法人(認可地縁団体、管理組合法人、特定非営利活動法人など)
- 人格のない社団等
わかりやすく言うと:「資本金1億円以下の中小企業(大企業グループの100%子会社などは除く)」であれば、通常はこの制度を利用できます。ただし、グループ通算制度の適用を受ける大通算法人は除かれます。
2-2. 青色申告の要件
この制度は青色申告書である確定申告書を提出している法人が対象です。白色申告では利用できません。
2-3. 申請のための3つの要件(通常の繰戻し還付)
国税庁タックスアンサー No.5763(令和7年4月1日現在)によると、次の3つをすべて満たす必要があります。
- 連続青色申告:還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について、連続して青色申告書である確定申告書を提出していること
- 期限内申告:欠損事業年度の青色申告書である確定申告書を、その提出期限までに提出していること
- 還付請求書の同時提出:上記の確定申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出すること
重要:還付請求書は確定申告書と同時に提出する必要があります。後から単独で提出することはできません。
なお、解散等の事実が生じた場合や災害損失欠損金額については、上記とは別に繰戻し還付の仕組み(提出期限や繰戻し年数が異なる)が用意されています(No.5763)。
3. 還付される金額の計算式
計算式
国税庁タックスアンサー No.5763(令和7年4月1日現在)に示された還付金額の計算は、次の考え方によります。
ただし、次の点に注意が必要です。
- 上限:分子となる欠損金額は、還付請求書に記載した金額が限度であり、また分母である前期の所得金額が限度となります(No.5763 注2)。
- 繰越控除との二重利用禁止:還付の計算の基礎に使った欠損金額は、翌期以降の繰越控除の対象から除かれます(No.5762)。
- 通算法人は計算方法が異なります(No.5763 注1)。
計算例
中小法人の軽減税率(令和7年4月1日以後開始事業年度:年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%。国税庁 No.5759)を前提に試算します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 前期(還付所得事業年度)の所得金額 | 1,000万円 |
| 前期の法人税額(試算) | 166.4万円 |
| 当期(欠損事業年度)の欠損金額 | 800万円 |
800万円 × 15% = 120万円
200万円 × 23.2% = 46.4万円
合計 = 166.4万円
還付金額:
166.4万円 ×(800万円 ÷ 1,000万円)
= 166.4万円 × 0.8
= 約133.1万円
注意:上記は法人税(国税)のみを対象とした説明用の試算です。実際には地方法人税(法人税額に対して課税)や中間納付、各種税額控除の影響で税額・還付額は変わります。また、所得金額が大きい法人や適用除外事業者などは、年800万円以下の部分の税率が異なる場合があります(令和7年4月1日以後開始事業年度で所得金額が年10億円を超える法人は、年800万円以下の部分が17%。国税庁 No.5759)。正確な計算は顧問税理士または管轄の税務署にご確認ください。
4. 繰越控除との違いと選び方
| 比較項目 | 繰戻し還付 | 繰越控除 |
|---|---|---|
| 対象となる税 | 法人税(国税)。地方法人税は法人税の還付に連動して併せて還付される場合がある(地方税は同じ形では還付されない) | 法人税(欠損金を翌期以降の所得から控除) |
| 効果が出る時期 | 当期(赤字の年)に現金が戻る | 将来の黒字年度に税額が減る |
| 対象法人 | 原則として中小企業者等(要件あり) | 青色申告書を提出した事業年度の欠損金を持つ法人 |
| 繰越(繰戻し)期間 | 前1年分(1事業年度に繰戻し) | 10年間(平成30年4月1日以後開始事業年度の欠損金) |
| 欠損金の再利用 | 使った部分は繰越控除の対象外 | 繰越控除に使った分は繰戻しに転用不可 |
| 現金効果 | 還付請求後、税務署の処理を経て現金化 | 黒字になった事業年度に節税効果 |
(国税庁 No.5762、No.5763、令和7年4月1日現在)
選び方の考え方
- 資金繰りが厳しく、今すぐ現金が必要な場合は繰戻し還付が有効です。前期に納めた法人税の一部が現金で戻ってきます。
- 今後また黒字が見込まれ、当面の資金は足りている場合は、繰越控除で将来の黒字と相殺する方法も選択肢になります。
- 2つの制度は同一の欠損金について重複して利用することはできません。繰戻しに使った欠損金は繰越控除の対象から除かれます(No.5762)。
判断は税理士と相談を:どちらが有利かは、前期の法人税額・今後の業績見通し・資金需要などによって異なります。適用前に顧問税理士に相談してください。
5. 還付請求の手続きと提出書類
欠損金の繰戻し還付を受けるには、欠損事業年度の確定申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出します。期限後に思い出して還付請求書だけを単独で提出することはできないため、赤字決算が見込まれる段階で早めに検討しておくことが重要です。
- 提出のタイミング:欠損事業年度の青色申告書である確定申告書の提出と同時(提出期限内)。
- 提出書類:「欠損金の繰戻しによる還付請求書」。書面で作成する場合は還付請求書1部(清算中の法人は2部)を提出時に添付します。
- e-Tax対応:e-Taxソフトで還付請求書を作成・提出できます。初めてe-Taxを利用する場合は利用者識別番号の取得が必要です。
(国税庁 手続案内 C1-52「欠損金の繰戻しによる還付の請求」)
6. 注意点
6-1. 地方税(住民税・事業税)の取扱い
繰戻し還付は法人税(国税)を対象とする制度です。法人の道府県民税・市町村民税(住民税)および事業税については、法人税と同じ形での繰戻し還付は行われません。国税で繰戻し還付を受けた場合の地方税(法人住民税・事業税)の取扱いは、控除対象還付法人税額として翌期以降に調整する仕組みが各地方税法で定められており、扱いが国税と異なります。地方税の具体的な処理は、顧問税理士または管轄の自治体・税務当局にご確認ください。
なお、地方法人税(国税)については、還付所得事業年度に確定した地方法人税額がある場合、法人税の還付額に一定割合を乗じた金額を併せて還付する取扱いがあります(国税庁 手続案内 C1-52)。
6-2. 税務調査との関係
法人税法上、還付請求書の提出を受けた税務署長は、その請求の基礎となった欠損金額等について調査を行うことができると定められています(法人税法第80条第9項)。繰戻し還付は還付をともなう請求のため、その内容について税務署が確認・調査を行う場合があります。大切なのは、適正な申告と正確な帳簿書類の整備を平時から行っておくことです。要件を満たしていれば、調査を理由に適法な制度の活用を過度に恐れる必要はありません。
6-3. 適用は任意
繰戻し還付は「要件を満たせば自動的に還付される」制度ではなく、任意の制度です。還付請求書を提出しなければ還付は受けられません。また、税務署の確認・調査の結果によっては、還付額が請求どおりにならない場合もあります。
6-4. 大企業等への不適用措置は令和10年3月31日まで延長
中小企業者等以外の法人については、欠損金の繰戻し還付制度の適用が一定期間停止されています(不適用措置。租税特別措置法第66条の12)。令和8年度税制改正により、この不適用措置の期限は2年延長され、原則として令和10年3月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額が対象となります(財務省「令和8年度税制改正の大綱」)。中小企業者等については、現行制度上、通常の繰戻し還付を利用できますが、税制改正により取扱いが変わる可能性があるため、適用時には最新情報を確認してください。
7. まとめ
- 欠損金の繰戻し還付は、当期の赤字(欠損金)を前期の所得にぶつけて、過去に払った法人税の一部を取り戻す制度です。
- 使えるのは原則として資本金1億円以下の中小企業者等で、青色申告書である確定申告書を提出している法人(大法人グループの100%子会社などを除く)。
- 要件は「連続青色申告」「期限内申告」「確定申告書と同時の還付請求書提出」の3点をすべて満たすこと。
- 還付額の計算は「前期法人税額 ×(欠損金 ÷ 前期所得)」。対象は法人税(国税)で、地方法人税は法人税の還付に連動して併せて還付される場合がある一方、法人住民税・事業税は同じ形では還付されず別の調整による。
- 繰越控除と比べると「今すぐ現金が戻る」メリットがある一方、「使った欠損金は繰越控除に転用できない」などの注意点もある。
- 適用は任意。必ず還付されるわけではなく、要件の充足と適正申告が前提です。詳細は顧問税理士または管轄の税務署にご相談ください。
- 欠損金の繰越控除とは――対の制度。将来の黒字と欠損金を相殺して節税する仕組みを詳しく解説しています。
- 法人税の計算方法――会計の利益から課税所得・税額が決まるまでの流れを4ステップで解説しています。
根拠・参考(一次情報)
| No. | 情報源 | 参照内容 | URL |
|---|---|---|---|
| 1 | 国税庁タックスアンサー No.5763 | 欠損金の繰戻しによる還付の概要・要件・計算・中小企業者等の範囲・大法人の例外(令和7年4月1日現在) | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5763.htm |
| 2 | 国税庁タックスアンサー No.5762 | 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除・繰越期間10年・二重利用禁止(令和7年4月1日現在) | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5762.htm |
| 3 | 国税庁 手続案内 C1-52 | 欠損金の繰戻しによる還付の請求手続き・提出部数・地方法人税の還付 | https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/1554_38.htm |
| 4 | 国税庁タックスアンサー No.5759 | 法人税の税率(中小法人 年800万円以下15%・超23.2%、令和7年4月1日以後) | https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm |
| 5 | e-Gov 法人税法 第80条 | 欠損金の繰戻しによる還付の根拠規定(第9項=調査規定を含む) | https://laws.e-gov.go.jp/law/340AC0000000034 |
| 6 | e-Gov 租税特別措置法 第66条の12 | 中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付の不適用措置の根拠規定 | https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026 |
| 7 | 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定) | 中小企業者の欠損金等以外の欠損金の繰戻しによる還付制度の不適用措置の適用期限を2年延長(令和10年3月31日まで/参照 2026.07) | https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm |
本記事は、国税庁タックスアンサー・e-Gov法令検索等の一次情報と照合したうえで、税理士の監修のもとに公開しています。
最終更新日:2026.07.04 対象読者:中小企業の経営者・経理担当者

